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オーディオ

2022年12月29日 (木)

Onkyo A-7VL導入の巻

拙宅のオーディオシステムについて、前回「再生環境の再構築に一区切り」と書いた舌の根も乾かぬうちに、今度こそ最後の(?)大きな変化が訪れた。プリメインアンプがゴールドムンドのMimesis SRからオンキヨーのA-7VLへと入れ替わったのである。

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前回書いたように、11月15日に新しいスピーカーとしてモニターオーディオのSilver RX2を導入したわけだが、そのポテンシャルを生かすべくシステムのあらゆる接点のクリーニング(賛否両論あるようだが、接点復活剤としてケイグのDeoxIT D5を使用)やセッティングの細かい調整を行ったところ、Mimesis SRに左右の音量差があることが明白になってしまったのである。

もともとステレオ再生時にはなんとなく左にエネルギーバランスが偏りがちだと感じていたし、4ch再生時には右フロントが弱く、右側の音全体がリア方向に引っ張られ気味に感じていた。実は接点クリーニングでケーブルを抜き差しした際、一瞬前後左右のバランスが良くなったように感じられたのだが、ジャクスン・ブラウン『Late For The Sky』の4ch盤を掛けてみて、あれっ?となった。右後方から聴こえるはずのデイヴィッド・リンドリーのギターが左後方から聴こえてくるではないか。そう、ディモジュレーターCD4-10改の出力を左右逆に繋いでいたのである。ということは、これはディモジュレーターの出力バランスの問題なのか? 試しにフォノケーブルも逆に繋いでみたところ、今度は盤によってキャリア信号の読み取り精度に問題が出て、この繋ぎ方では使えないことが判明。CD4-10改の入口と出口を正しい繋ぎ方に戻し、アンプの左右チャンネルを入れ替えてみた。するとどうだろう、フロントの音が完全に右寄りになったではないか。それまで左にエネルギーバランスが偏りがちだとなんとなく感じていた原因が、耳のせいでも部屋のせいでもスピーカーやケーブルのせいでもディモジュレーターのせいでもなく、アンプそのものの問題だったことがようやくはっきりした(気付くのが遅い!)。音そのものは気に入っていたが、もうこのままでは使えない。修理・調整も考えたが、時間も金額も掛かりそうだし、この際気分を新たにしようと、思い切ってアンプを買い替えることにした。

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Mimesis SRをヤフオクに出すためにシステムから外し(もちろん状態は表記したが、最終的に予想外の高値で落札された)、とりあえずサラウンド用のアンプであるフライングモールのCA-S3をSilver RX2に繋いでみた(CA-S3にバナナプラグはつかえないので、ケーブルはCardasのCrosslink 1S)。ヴォーカルがピタッと中央に定位し、ステレオイメージが左右にバランス良く広がるさまは心地よかったが、何か聴いていて楽しくない。音楽が生き生きしているようには感じにくいのだ。このアンプの限界なのか、少なくともRX2との相性はイマイチのようだったが、サラウンド用に使っている分には問題ないだろう。

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アンプの新機種選定にあたっては音質以外にも、セッティング上Mimesis SRに換わる役割が果たせるよういくつかの条件があった。まず、Silver RX2にバイワイヤーで繋いでいたスピーカーケーブル、Analysis PlusのSilver Oval Bi-Wire 3.6mをそのまま使用できるよう、バナナプラグ対応であること。オーディオインターフェイスのRME Babyfaceと接続するためのテープ入出力端子が付いていること。アナログ入力が3〜4系統あること(Mimesis SRは5系統)。トーンコントロールやバランスつまみは不要であること。そして購入可能な金額(低予算)であること。この条件で色々調べてみて、オンキヨーの2011年製のデジタルプリメインアンプ、A-7VLがピッタリであることが判明。デザインもシンプルでいい感じ。ちょうどヤフオクに取扱説明書、リモコン付で出ていたものがあり、12月19日に42,900円で落札。1,500円分のクーポンが使えたので、41,400円+送料で入手できた。22日に到着し、早速セッティング。電源ケーブルは、Mimesis SRに使っていたゴールドムンドのPower Cable (S)をそのまま使用。出てきた音はといえば、極めて自然。まったく無理なく細かいディテールまで丁寧に描いてくれる。広域から低域までRX2を充分に鳴らし切ってくれる感じで申し分なく、少なくとも個人的にはMimesis SRに負けている要素は感じられなかった

使いこなしの面では、フォノ入力(MM)端子は別にいらないと最初は思ったが、考えてみればディモジュレーターは調整が必要になることがあるかも知れず、その際の一時しのぎには便利だろう。そのディモジュレーターからの入力にはチューナー端子を使用。CDはアナログ端子のほかに、デジタル音声入力端子もあるので、オーディオテクニカの光デジタルケーブルAT-OPX1/1.0を用意して繋いだが、なかなか音がいい(SACDの出力はアナログのみなので、アナログのCD端子もやはり必要)。高級機でもなんでもないユニバーサルプレーヤーのDV-SP155だが、この組み合わせで充分使えるではないか。そう、このアンプはDAC搭載でデジタル入力にも対応する一方で、アナログ入力も必要な数が確保されているのが、購入の決め手のひとつでもあったのだ。

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上の写真でCA-S3が斜めに置いてあるのは、スピーカーケーブルの長さがギリギリになったためだ。パイオニアのカセットデッキT-D7とソニーの8トラックカートリッジプレーヤーTC-6は、アンプがMimesis SRの時は入力端子に余裕があったので別々に繋いでいたが、A-7VLではテープ入出力端子を除く残りのアナログ入力端子は、iPod用RIドックを接続するためのドック端子だけしかない。なのでそこにはカセットデッキからの出力を繋ぎ、8トラプレーヤーの出力をカセットデッキの入力に繋いだ。8トラは出力レベルが低いので、カセットデッキの入力レベルを上げてやると、アンプにちょうどいい出力レベルで送れることがわかり、それはそれで好都合だった。

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リモコンの上半分はドック用とチューナー用なので不要、CD用ボタンはオンキヨー製CDプレーヤーに伝えるとのことだったが、2004年製のDV-SP155は反応しなかった。結局使えるのはボリュームとミューティングのボタンだけだが、リスニングポジションとアンプはさほど離れていなくても、リモコンでのボリューム操作は意外と便利と実感した。

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今のところ唯一の不満は、アルミ削り出しの入力切替ツマミやボリュームツマミがキラキラと反射して、目盛りの位置が見えづらいことぐらいか。後は大満足、これでようやく落ち着いて音楽に没頭できそうだ(CD-4再生時、盤によって発生するノイズやキャリア信号読み取り精度に対する対策について、考えていることはあるが)。

2022年11月25日 (金)

モニターオーディオ Silver RX2の導入で再生環境の再構築に一区切り

前回の「洋楽聴き始めて50年、そのオーディオ遍歴など」では、8月26日にフロントとリアのスピーカーを入れ替えたところまで書いたが、その後新しくメインのスピーカーとしてモニターオーディオのSilver RX2を導入し、それによって2020年10月に4チャンネル再生をスタートさせてからの試行錯誤およびそれ以前からの低域不足問題にようやく区切りをつけることができたので、その報告をまとめておく。

8月に前後を入れ替えたのは、プリメインのGoldmund Mimesis SRではMonitor Audio 702PMCがまともに鳴らず、リア(サラウンド)用のデジタルプリメインアンプFlying Mole CA-S3と繋いだMonitor Audio Bronze BR1は元気が良すぎて、フロントとバランスが取れなかったからだったが、結局702PMCが鳴らなかったのはアンプのせいではなくスピーカー自身がヘタっていたのが原因だったようだ(それをなんとか鳴らしたCA-S3は、小さいのにそれだけ馬力があったということか)。Mimesis SRに繋ぎ直したBR1も健闘してくれていたが、もう少し余裕が欲しかったので、メインとなるスピーカーの新規導入を検討。同じモニターオーディオでBronzeの上のクラス、最も売れているSilverシリーズの、一回り大きいブックシェルフ・タイプに狙いを定めた。第7世代にあたる現行機種は2021年発売のSilver 100 7Gだが(今年10月には創業50周年記念のLimited Editionも登場)、20万前後するため予算不足の現状ではとても買えない。ということでいろいろ調べた結果、現在のそのSilver 100まで続くH375×W230×D300という大きめのサイズでは第1作にあたる、2009年発売の第4世代の戦略的モデル、Silver RX2(当初の価格は11万ほど)がよさそうということになった。当時のブログ記事を検索してみても、「RX2 の弟の RX1 はモニタースピーカー的なドライでナローな音ですが、RX2 は少し大きいこととウーファーがすごいので、低音にパンチとスピード感がありまして、非常に楽しいスピーカーとなっています」(遠隔画像診断医やすきーの日記)とか「過去のモニターオーディオが好きだった人、とにかく音の情報量、立ち上がりの早さが欲しい人はRX2以外を買うと、大変な損になってしまうでしょう」「逆に言えば、RX2はこの値段では考えられないくらいのレベルに到達していました」(情景都市)とまで書かれてあっては大いに気になるではないか。結局メルカリで、何色かある中でもベストに思われたローズウッドのモデルを38,000円で購入でき(ちなみにこの買物でメルカリくじの1等に当たり、条件をクリアしたので来月には10,000ポイントが貰えるらしい)、11月15日に到着。

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到着したSilver RX2を702PMCと並べてみた。幅だけでなく、奥行もだいぶ違う。

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部屋には昔TOSKA(現ヒガシ)のLB1000という組み立て家具シリーズで作ったCDや本の入るキャスター付ラック(幅78cm×高さ74.5cm×奥行16cm)が複数あって、BR1は背中合わせにした2台ずつの上に載せていたが、その場所にRX2を内向きにセット。オーディオテクニカのインシュレーターAT6099(3点支持)をあてがったら、サイズはピッタリだった。トゥイーターの高さも耳のやや下で申し分なし。

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そしてそこから放たれる音はといえば、解像度が極めて高く、上から下までしっかり出て、定位も明確で細かい音まで聞こえ、スタジオの空気のようなものもしっかりと感じられ、そして音楽が実に生き生きと鳴るという、申し分のないものだった。低域不足の702PMCを聴いてきた日々、もっとちゃんと低音を出すにはサブウーファーを追加するかトールボーイ型のスピーカーに換えるしかないのかと思ったりもしていたが、このサイズで十分に出せるとは、驚くやら嬉しいやら。

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23年間使い続けた702PMCとスピーカースタンド「弁慶」はついに処分することにして、その場所にBR1をセッティングすべく、HAMILeXの高さ70cmのスタンド、SB-967を購入。フロントのRX2とトゥイーターの高さを合わせるのにはまだ12cmほど足りないので、試しにスタンドの下にSPレコードのケース(もちろん中にはSP盤がビッシリ)2個ずつを挟んでみたところ、フロントとリアのトゥイーターの高さの差は1cm未満に収まり、ここまで変わるのかというくらい前後の一体感が出てビックリした。

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CA-S3とBR1の組み合わせでも、RX2が相手であれば、低域過多と感じる心配もない。これでバランスがビシッと整った。

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再生環境の再構築はようやくこれで一区切り。今やサラウンド以降のオーディオのトレンドは、天井にもスピーカーを設置して立体的な(3D)音響を楽しむ、ドルビーアトモスなどのイマーシヴオーディオに移っているようだが(実際にどの程度浸透しているのかはよく知らない)、そちらへの対応はまだできそうもないので、当面は今の環境を堪能していきたい。

というわけで、 現行の再生環境について、以下に整理しておく。オーディオ用の電源はブレーカーから単独で引き、Purist Audio DesignのコンセントCRYO-L2を設置。そこからAC Designの電源ケーブルZEROで、チクマのタップCPS-23MKII-CLに繋いでいる。各機器の電源はそのタップから取っているが、プリメインアンプのMimesis SRのみ、電源ケーブルのGoldmund Power Cable (S)でコンセントから直に取っている。ラックはクアドラスパイアのQ4D Hi-Fi Table。Mimesis SRはゴム脚が熱でダメになってしまったこともあり、IronAAのインシュレーター「義経」を3点支持で使っている。スピーカーケーブルはMimesis SRからSilver RX2までがAnalysis PlusのSilver Oval 3.6m Bi-Wire(アンプ側はバナナプラグ、スピーカー側はYラグ)。CA-S3からBronze BR1までがCardasのCrosslink 1S(スピーカー側のみYラグ)。

●アナログレコード

プレーヤーはC.E.C. ST930S。ケーブルはオーディオクラフトのSX-TP100に交換。ディモジュレーター兼フォノイコライザーはVictor CD4-10を改造したもの(詳しくはこちらの過去記事を)。Mimesis SRへのケーブルはAC Design WTC-1/III。

▼ステレオ:結果的にスピーカーの入れ替えでこの部分の再生能力が高まったが、盤によっては外周部と内周部の音質の差が露骨に出てしまうこともある。カートリッジはオーディオテクニカのVM750SH(詳しくはこちらの過去記事を)。ヘッドシェルは同じくテクニカのAT-LH15/OCC。ディモジュレーターでもあるCD4-10改は、フォノイコライザーとしても極めて優秀である。

▼モノラル:カートリッジはテクニカのVM610MONO。ヘッドシェルはAT-LH18/OCC。左チャンネル分のみ結線し、スピーカーも左のみで鳴らしているが、スピーカーを内振りにしているので違和感はない。

▼ディスクリート4ch(CD-4、UD-4):VM750SHとCD4-10改が本領を発揮するが、盤質や4chミックスの良し悪しも出てしまう。盤と針先のクリーニングも徹底しているが、内周付近でどうしても歪む盤も少なくない。リアチャンネルの音声はCD4-10改の出力をAD DesignのケーブルBasis 1.4でCA-S3に送っている。

▼マトリクス4ch(SQ、RM他):デコーダーを持っていないので、4ch再生のためにはWindowsパソコンに取り込んでWAVファイル化し、Max Console内のQuadraphonic Decorderというソフト(詳しい解説はこちら)で再生。ただしそのソフトでは複数のファイルの連続再生ができないので、アルバムを通して聴く場合は、アルバム全曲をひとつのWAVファイルにしておく必要がある。パソコンとオーディオを介しているインターフェイスはRMEのBabyfaceで、フロント分はメインのステレオ出力からMimesis SRに送り、リア音声はヘッドホンジャックからCA-S3に送っている。ステレオミニプラグのものはいろいろあるが、ステレオ標準プラグ⇔RCAピンプラグ×2というケーブルが意外に売ってなくて、ATL446Aというオーディオテクニカの安いケーブルを使っている。

▼SPレコード(78rpm):プレーヤーのST930Sは当然78回転に対応。カートリッジはテクニカのAT-MONO3/SPで、SP用ながらRIAAカーヴでの再生に適応しているのはありがたい(詳しくはこちらの過去記事を)。ヘッドシェルはモノラルと同様AT-LH18/OCC 。こちらは右チャンネル分のみ結線し、CD4-10改に送っているので、右のスピーカーからのみ音が出る。

●CD/SACD/DVD-Audio/dts-CD

ユニバーサルプレーヤーはオンキョーのDV-SP155。INTEC155というシステムコンポを構成するプレーヤーとして、2003年6月に6万程度の価格で発売された普及品で、去年の12月に5,000円で入手(リモコンがなくて別途手配したが)。アナログマルチ出力があるのが一番のポイントで、5.1chのソースもちゃんと4.0chで出力できる。フロント分はAD Design WTC-1/IIIでMimesis SRへ、サラウンド音声はテクニカの安めのケーブルでCA-S3へ。CA-S3は入力が1系統しかないので、CD4-10改から、Babyfaceから、DV-SP155からのそれぞれのケーブルはその都度差し替える必要があり、それはちょっと面倒だが仕方ない。CA-S3の本体背面のピンジャック直接の抜き差しだとダメージが怖いので、CA-S3にはテクニカのARTLINKケーブルを繋ぎ、その先にJVCのAP-302HFというプラグアダプターを接続、そこにそれぞれのケーブルを繋ぎ換えるようにした。

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DV-SP155はCDプレーヤーとしては大したことないという書き込みもネット上で見かけ、確かに702PMCでの再生時には高域がきつく感じたが、今は再生になんら支障はなく、普通にいい音で聴ける。それにしても、一時期消えかけたSACDも復活の兆し(?)は見えるものの、現行のハイエンドオーディオ用のプレーヤーでは、SACDの特徴のひとつであるマルチチャンネル再生が無視されているようで、なんともやりきれない。

●ダウンロード/ストリーミング他

SpotifyやYouTubeなど、あるいは手持ちの音声ファイルなどはすべてパソコン上で再生し、Babyface経由でMimesis SRに送っている。再生ソフトはFoobar 2000など。BabyfaceからのケーブルはMimesis SRのテープ入出力端子に接続している。アナログレコードなどを録音する場合は、アンプからBabyface経由でパソコンに送り、Audacityで録音しWAVファイルなどで保存。ブルーレイもDV-SP155は対応していないので、パソコン上で再生。

●カセット

パイオニアのT-D7を再生専用機として使用。録音済みのカセットは大量にあるが、もうブランクテープに録音することはない。

●8トラック・カートリッジ

ヤフオクで500円で落札したソニーの再生専用機TC-6を使用。音質は独特。最近使用頻度が少ないので、たまに回してあげないといけない。

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2022年10月19日 (水)

洋楽聴き始めて50年、そのオーディオ遍歴など

前回のエントリー「ピアソラ没後30周年、『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』改訂版のお知らせ」にてお知らせしたとおり、当初はピアソラ没後30周年の7月4日には間に合うように、その後なんとか年内にと目論んでいた拙著の改訂作業だが、遅々として進まず。もう10月も半ばを過ぎたというのに、本文の見直しはようやく全9章中第3章(パリ留学と弦楽オーケストラによる録音まで)までが終わったところ。とにかく直すところ、書き足すべきことが多すぎるのだ。他の仕事等との兼ね合い、そして年齢との闘いもあり、集中力も以前のようにはなかなか保てないというのが正直なところでもある。しかし改訂するのもこれが最後の機会だろうから、中途半端な形にはできない、出版社からも特に「いつまで」とは期限を定められていない、ということでお待ちいただけるよう、切に願う次第である。

それはともかく、これを書いている10月19日は、翌20日に64歳の誕生日を迎えようとしているところで、1972年の誕生日後ぐらいから意識的に洋楽を聴くようになってちょうど50年という節目の年にあたる。音楽を聴くのに欠かせないオーディオとの付き合いについてもこの機にまとめておこうと、少しずつ記憶を辿りながら、合間合間に書き溜めてきた。まぁ、備忘録のようなものだが、せっかくなので披露しておくことにする。

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今住んでいる鎌倉市の家に私と姉、両親の一家が引っ越してきたのは、私が4歳だった1963年2月のことだ。それまでは横浜市中区の社宅住まいだったが、父が閑静な今の場所を気に入って、2階建ての家を建てたのだった。

その新居にステレオがやってきたのは、私が5歳になって間もない1963年11月のこと。なぜ11月とはっきりしているかというと、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺のニュースが流れたのとほぼ同時で、後に家族がそれを話題にしていたからだ(22日の暗殺当日だったかどうかまではわからないが)。

そのステレオは脚の付いた家具調のコロムビアのアンサンブル・ステレオで、応接間にセットされた。今では型番もわからないが、扉が前面ではなく上部に付いていて、スプリングでフロートされたリムドライブのプレーヤーは16、33、45、78の4スピードだった。当時の流行りだったスプリング・リバーブが付き、FMはモノラル(まだステレオでの本放送自体が始まっていなかった)。確か別売のユニットを繋げば、AMステレオの試験放送も聴けるようになっていた。アンテナを屋根に設置したわけではなく、受信状況はそれなりだったような気がする。

私は大船駅前の大船ミュージック・ショップで『サンダーバード』のソノシートなどを買ってもらった記憶がある。よく家で流れていたのは『お茶の間名曲集』。東芝の赤盤で、ジャケットがモディリアーニの肖像画か何かで、「クシコス・ポスト」が入っていたこと、演奏者の中に平岡精二の名前があったことはぼんやりと覚えている(ネットで検索しても同じものは見当たらなかった)。8歳年上の姉は、イ・ムジチ合奏団のアルバム(『四季』だったか『ブランデンブルク協奏曲』だったか)、ザ・サベージやスパイダースの入ったコンパクト盤(7インチ4曲入り)のオムニバス、『ウエスト・サイド物語』サントラの4曲入り7インチ(「トゥナイト」「クール」「マリア」と「アメリカ」、これはよく聴いた)などを揃えていた。針を下ろそうとして盤の上でガーッと横に滑らせては、よく怒られた。

私が自分で最初に買ったのは、ザ・フォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」だったはずだが、ヒットしていたのは9歳の頃で、状況はよく覚えていない。買ったのはもっとずっと後だったかもしれないが、その後しばらくは何も買わなかった。

小学校4年生の時、父がどこかから貰ってきたソニーの小型・充電式の赤いAMラジオをくれた。ネットで確認したところ、1968年5月に発売されたIC搭載ラジオの2号機ICR-200という当時の最新鋭機だった。

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※画像はネットから

貰ったのはいいが、最初は何を聴いたらいいかわからなかった。デザインは良かったが性能はイマイチで、そのうちソニーの6石スーパーのトランジスタ・ラジオか何かと入れ替わったんだったと思う。

6年生になって学校からの帰り道、公団住宅に住むH君がラジオを見せてくれた。それは自分の持っていた小型のものとは全然違っていて、メーターが付き、FMも短波も入る、かっこいいデザインのものだった。どこのメーカーだったかは覚えていないが、世の中にはこんなものもあるのかと興奮した。土曜日に鵠沼まで自転車でピアノを習いに行った帰り道、藤沢駅近くのオーディオとレコードの店に立ち寄り、並ぶ商品を眺めたりカタログを貰ったりするのが楽しみになった。その頃よく聴いていた番組は、土曜夜10時からのTBSラジオ『ヤングタウンTOKYO』など。歌謡曲やフォークが好きでラジオで聴いたりしていたが、洋楽のことはまだほとんど何も知らなかった。

当時家にはソニーのオープンリールの“テープコーダー”もあって(ネットで検索したら、1964年5月発売のTC-221だったことが判明)、一時期はエアチェックもしていたが、どのラジオからどうやって録音していたかは覚えていない。

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※画像はネットから

3台目として買ってもらったラジオは、ソニーのスカイセンサー5400(ICF-5400)。1972年に登場したスカイセンサーは、先に出た5500が縦長の斬新なデザインと豊富な機能で人気だったが、私はあえてそれ以前のソリッドステートIC 11やTHE 11の流れを汲むオーソドックスな5400にしたのだった。

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※画像はネットから

中学2年だった1972年の夏、久しぶりにシングル盤を買った。山口崇、林隆三、津坂匡章の「月は東に日は西に」。楽しみに観ていたNHKドラマ『天下御免』の挿入歌だが、何故これ1枚だけを買ったのかは覚えていない。

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※画像はネットから

そして10月に誕生日のお祝いとして貰ったお金で、LPレコードを買おうと思い立ち、大船ミュージック・ショップに行った。ちょうどCBS・ソニーの年末商戦恒例のギフト・パック・シリーズが出たところで、壁の上の方にジャケットがずらりとディスプレイされていた。天地真理や南沙織があるなあ、と思いながら左の方向に視線を移していくと、洋楽が並んでいた。邦楽は1枚ものなのに、洋楽は銀色のボックス入りの2枚組で、それだけで特別感があった。そして通し番号の若い方に辿っていくと、①はサイモンとガーファンクルだった。これだ、これにしよう、と決めた。ほとんど聴いたこともないくせに。

だが、その場でそれを買ったわけではない。S&Gのコーナーを見てみると、いろんなアルバムが並んでいる。2枚組のベスト盤もギフト・パックは3,000円なのに『サイモンとガーファンクルのすべて』が3,600円である。この金額の差は何処から来ているのだろうかと、真剣に悩んだ。1枚もののベストも、『明日に架ける橋』登場前の音源を集めた『サイモンとガーファンクルのグレーテスト・ヒット』、後述の米国編集のベストが決まった時点で、その曲目のまま日本先行で発売された『サイモンとガーファンクル・グレーテスト・ヒットⅡ』、その内容を同タイトルのままゴールド・ディスク・シリーズに組み込んだもの、そして正真正銘の米国編集盤として発売されたばかりの、ライヴ・ヴァージョンやリミックスなどの未発表音源を含む『サイモンとガーファンクル・グレーテスト・ヒット』。迷った挙句、最終的に選んだのはその米国編集の『グレーテスト・ヒット』で、購入日は11月1日とメモした。同じ頃洋楽を聴き始めた同級生のTとIは、どちらもギフト・パックを買っていたけれども。

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ちょうどラジオ関東で始まったばかりの『全米トップ40』を聴いてチャートをチェックするようになり、リオン・ラッセルが表紙の11月号から雑誌『ミュージック・ライフ』を買い始め、LPはそうそう買えないから、シングルでギルバート・オサリヴァンの「アローン・アゲイン」やエルトン・ジョンの「クロコダイル・ロック」、ミッシェル・ポルナレフの「愛の休日」などを買った。

アンサンブル・ステレオは応接間にあって好き勝手には聴いていられなかったから、自室で聴けるラジオ(スカイセンサー5400)が大事なアイテムだった。そして恐らく高校に入学したタイミングで(1974年)、カセット・テープレコーダーを買ってもらった。ソニーのTC-2600で、ステレオ録音とLL録音(語学練習用に片チャンネルずつ録音や再生ができる)を備えた機種だった。

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※画像はネットから

スカイセンサーのMPX-OUT端子に繋げるステレオ・ヘッドホン・アダプターのSTA-50を買い、そのステレオ出力をTC-2600に接続すればFM放送のステレオ録音ができたので、この組み合わせは大変重宝した。

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※画像はネットから

また、TC-2600をアンサンブル・ステレオのDIN端子に接続すれば、一応カセット・デッキとしても使うことができたから、音質はともかくレコードからカセットに録音すれば、部屋でもヘッドホンで聴けたのである(モノラルでよければスピーカーからも流せた)。

高校では放送部に入ったが、放送室にあったコンポーネント・ステレオが、新たな憧れとなった。スピーカーは覚えていないが、アンプは確かパイオニア、そしてプレーヤーは間違いなくパイオニアのPL-1200。これはカッコよかったから、強烈な印象を残している。後は番組作りなどに活用したオープンリール・デッキだ。メインはティアックの10号リール用A-3300Sと7号リール用A-2300Sで、操作パネルが傾斜しているソニーのスラントタイプのもの(多分TC-6360A)もあった。オープンリール・テープに録音したピンク・フロイドの『狂気』やディープ・パープルの『紫の炎』を放課後に聴いた記憶がある。

私は1974年の夏にラジオでスティーリー・ダンの「リキの電話番号」を聴いてから彼らに夢中になり、東芝EMI公認スティーリー・ダン・ファン・クラブの最年少会員となったほどだったから、1975年の『嘘つきケイティ』、1976年の『幻想の摩天楼』、1977年の『彩(エイジャ)』は輸入したての米国オリジナル盤でまず買ったが、解説と対訳欲しさに国内盤にすぐ買い替えてしまった(その後CDが出た時に買い替え、最終的にアナログを買い戻した)。今思えばなんとももったいない話だが、家のアンサンブル・ステレオでは音の良し悪しがわからないどころか、その頃には片チャンネルからバリバリとノイズが出るなどして、瀕死の状態だったように思う。大学に入ったら自分用のコンポーネント・ステレオを揃え、姉が結婚して家を出てから使えるようになった2階北側の和室で聴くのが目標となった。そして1978年。一浪してなんとか大学に入り、自室用のアンプとプレーヤーをようやく用意できることとなった。選んだプリメイン・アンプはサンスイのAU-607(初代)、レコード・プレーヤーはビクターのクオーツロック式のQL-5(カートリッジはZ-1EBが付属)。

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※画像はネットから

カセット・デッキはとりあえずTC-2600をそのまま使用。チューナーは買わなかった。そして問題がスピーカーで、とりあえず使い物にならなくなったアンサンブル・ステレオを2階に持って上がり、スピーカー部をそのまま繋げた。無謀にも平面バッフルを試そうとしてアンサンブル・ステレオの筐体をばらし、部屋の長押(なげし)の上に45度の状態で置いてみたら、低音がまったく出なくて苦笑する場面もあった。ということで、ほどなくしてJBLのL40を購入、ようやくまともなシステムとなった。

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※画像はネットから

TC-2600には世話になったが、デッキも本格的なものにしようと、1980年頃にサンスイのSC-55を買った。これはカセットホルダーがなくテープを直接メカニズム部に装着する「ダイレクトマチック方式」のデッキだったが、テープによっては回転精度に支障をきたし、使いづらかった記憶の方が大きい。

Sc55
※画像はネットから

その後、はっきり覚えてはいないがカートリッジをオーディオテクニカのAT-ML150/OCCあたりに換えていたようだ。

1981年。横浜の鶴屋町にあった松本印刷の2階に松本社長が開いた「レコピア」という貸レコード店でバイトを始めた。三鷹に初の貸レコード店として黎紅堂がオープンしたのが1980年というから、まだ貸レコード店の黎明期の話だ。そこで使われていたのは、確かアンプがビクター、プレーヤーがテクニクス(SL-1200シリーズではない)だった。壁に掛けてあったスピーカーについては覚えていない。私は雇われ店長のような形で、仕入れから会報作りまで手掛けた。そのうちに社長がもう飽きたからやめるというので、中古レコード店にしたらどうですかと言ったところ、じゃあお前がやれというので、レンタルに使っていたレコードを買い取って商品として流用する形で、中古レコード店「レコピア」を開業した。1982年のことである。結局色々な事情で店は2年も続かなかったが、ラテン音楽好きのお客さんから買い取ったレコードの中にアストル・ピアソラの『レクエルド』(タンゴの歴史 第2集)やピアソラを含むオムニバス『われらのタンゴ』があり、それを聴いたことが、その後の私の人生を変えたのだった。

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使用済みとなった店のオーディオは、父親が引き取って事務所に置いた。父は会社を定年となるタイミングで資格を取り、かつてアンサンブル・ステレオが置かれていた10畳の応接間を事務所として使っていたのである。

1985年頃には、アンプをオンキョーのIntegra A-817RXに換えている。理由は覚えていないが、AU-607のフォノ・イコライザーがMM専用だったので、MCカートリッジも聴けるようにしたかったのかも知れない。そして1986年2月2日、ついにCDプレーヤーの登場となる。恐らく当時話題になっていたマランツのCD-34も候補だったはずだが、選んだのはパイオニアのPD-7010である。その日買った最初のCDは、ミルバ&アストル・ピアソラ"Live at the Bouffes du Nord"、スティーリー・ダンの"A Decade of Steely Dan"、ティアーズ・フォー・フィアーズの"The Hurting"の3枚だった。

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その後最初のMCカートリッジとしてオーディオテクニカのAT33ML/OCCを導入した。

1987年5月から1988年5月まではブエノスアイレスに滞在した。向こうで使うために確かアイワの海外仕様のラジカセを買い、日本語の歌を聴きたくなった時のために、斉藤由貴の『チャイム』などをカセットに入れて持って行ったのを覚えている。当時向こうの中古レコード店は宝の山で、大量のレコードを買うことになり、隣人から使っていないポータブルのプレーヤーを借りて聴いたりもした。ブエノスアイレスではSPレコードもかなり買い、蚤の市で買った小型の蓄音機共々持ち帰ったが(割とすぐに壊れた)、気軽に聴けるように、コロムビアのポータブル・レコード・プレーヤー、2190RMを購入した。

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※画像はネットから

1989年3月10日に家を出て東京都世田谷区へ引っ越し。そのタイミングでだったかどうかは覚えていないが、スピーカーをソニーのラ・ヴォーチェSS-A5に換えた。SP盤は2190RMでも聴くには聴けたが、ちゃんとオーディオで再生したいと思い、1989年12月18日、3スピードのベルトドライブ・プレーヤー、C.E.C.のST930Sを購入。実に30余年後の今も元気で稼働中の、私にとってなくてはならない大切なプレーヤーだ。

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カートリッジはAT33ML/OCCともサイズの合うオーディオテクニカのAT-MONO3/SP(SP盤用)、その後AT-MONO3/LP(モノラル盤用)を用意した。

1990年6月16日には世田谷区から川崎市多摩区へ引っ越した。その頃、カセット・デッキがA&DのGX-Z7100EVに換わっている。1991年頃にはデノンのカートリッジ、DL-103GLを買っていたが、何故買ったのかまったく覚えておらず、ほとんど使わないまま10年後に処分するはめになった。1993年頃、DATウォークマンのソニーTCD-D7を購入したが、これは1995年8月と1997年9月に取材のためにブエノスアイレスに行った際にも活用した。1994年頃、CDプレーヤーがマランツのCD-16に置き換わり、1997年頃にはメインのカートリッジが同じオーディオテクニカのAT33PTGとなった。1998年4月、青土社から『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』を上梓。執筆や編集で酷使したそれまでのパソコン(NECの98MULTi CanBe、型番は不明)からコンパックのWindows98パソコン、Presario 2240に買い替え、波形編集ソフトのWabeLabとISAバス用サウンドボード、CreamwareのMMportのセットを購入。アナログ音源のパソコンへの取り込み・編集や、パソコン内音源のオーディオへの送り出しが可能となった。録音はパソコンで行うようになり、DATやカセット・デッキは基本的に再生専用となった。1998年頃にはアンプが同じオンキョーのIntegra A-929に換わっているが、状況は覚えていない。

1999年に入る頃、癌を患っていた父親が倒れた。母親の面倒もみる必要もあり、川崎と鎌倉の実家を行き来するようになる。入院した父は4月に亡くなり、私は最終的に7月10日に実家に戻った(母はその後施設に入る)。古くなっていた家を改修し、窓を木枠からサッシに替えた。かつてアンサンブル・ステレオが置かれ、その後父が事務所として使っていた10畳の応接間を、オーディオ・ルーム兼仕事部屋として使わせてもらうことにして、壁一面にはTOSKAのLB1000シリーズという組立家具でレコード棚を、その対角にはCD棚を組み上げた。

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この画像は、オーディオシステムを撮った一番古い写真だ。スピーカーはソニーのSS-A5、ラックの左側下段がオンキョーA-929、その上はアイワの全世界対応のVHSテープ・デッキHV-MX100(今回はAV機器の変遷には触れなかった)、右側は下からマランツCD-16、真ん中の黒いのがA&DのGX-Z7100EV、その上の薄いのはどこからか貰ったチューナーで、ほとんど使わなかったしメーカーも覚えていない。スピーカーの間にある黒いのはケンウッドのレーザーディスク・プレーヤー。

1999年9月、スピーカーを新しくした。雑誌『オーディオ・アクセサリー』で紹介されていた、当時日本ではまだ無名だったイギリスのメーカー、モニター・オーディオのブックシェルフである702PMCが気になって、数少ない取扱店のひとつだった関内の横浜サウンドに試聴しに行ってみたら、その音離れのよさが気に入ってしまったのだ。

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これは702PMCの導入直後の写真。そして702PMCの導入以降、そのポテンシャルを引き出そうと、怒涛の買い替えモードに入ることになる。まず、CDプレーヤーをティアックのVRDS-25XSにした。DATウォークマンの調子が悪かったため、デッキとしてDTC-ZE700を購入。

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バキューム式レコード・クリーナーにVPIのHW16.5を導入(これは今もしっかり現役)。ラックをクアドラスパイアにした。次にMC専用フォノ・イコライザーとしてリンのLINTOを用意、プリメイン・アンプを逸品館の小型・別電源式のAirbow LITTLE PLANETにしてハイスピード化を狙った。モノラル盤やSP用のフォノ・イコライザーとして、カーブ可変型のサウンドボックス Mozart Phonoを導入。それに合わせてSP再生を極めようと、ソノヴォックスのバリレラ型、MC-4を入手(針を換えればモノラルLPも再生可能)。ついでにデノンのDL-102SDの中古まで買っているが、これはほとんど使わなかった。

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LITTLE PLANET(右側の下から3段目左が本体、左側の下から2段目右が電源部)が写っている唯一の写真。この後ステレオ・カートリッジがベンツマイクロのREFERENCEとなった。2000年2月までに一気にここまで進んだ後、ステレオ盤とモノラル盤、SPを掛け換える度にフォノケーブルを繋ぎ直すのが面倒になったため、5月に2台目のプレーヤーとしてノッティンガムのTHE SPACEDECKまで購入、ステレオ用とモノラル用のアナログ2台体制とした。6月にはモノラル盤用にオルトフォンのSPU Mono-Gの中古を手に入れた(これはMozart Phonoとの相性が良かった)。SP再生時のスクラッチノイズ軽減のためにマランツのグラフィック・イコライザーEQ-580も買ったが、これは結局なくても支障はなかった(最終的に2020年12月に売却)。LITTLE PLANETは音が平板に感じるようになり、入力端子が少なくケーブルの繋ぎ換えもまた面倒になったところで、ゴールドムンドのMIMESIS SR(プリメイン)の中古を9月にオーディオ・ユニオンで見つけて購入。11月には702PMCのために超弩級のスピーカースタンド、京都のガレージメーカーIronAAの弁慶を設置。12月にはGX-Z7100EXが故障してしまったため、パイオニアのT-D7を購入。ケーブルや電源への投資を含め、今思えばこの時期が、システムが一番贅沢だった。

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2001年2月に結婚し、翌年には子供も誕生、オーディオへの投資はひとまず打ち止めとなった。さすがにREFERENCEが分不相応に思えてきて、2002年3月にはメインのカートリッジをリーズナブルなオーディオテクニカのAT-ART200に変更。SPU Mono-Gもそのうちに針先を飛ばしてしまい、しまってあったAT-MONO3/LPが復活した。2006年9月、パソコンをNECのValueOne MT600/4D3W(Windows XP)に買い替え。もはや時代遅れのISAスロットはなくPCIスロットのみで、Presario 2240に挿していたMMportは使えなくなってしまった。そのパソコンとボードを処分したのは、さていつのことだったか。

時は流れ2011年5月、レコード・プレーヤーの2台使いも贅沢と感じられるようになり、資金繰りの必要もあってTHE SPACEDECKは売却。一方でパソコンと繋ぐオーディオ・インターフェイスとしてRMEのBabyfaceを導入、MIMESIS SRのテープ入出力端子に繋いで、録音や再生を受け持つパソコンとの連携が復活した。9月にはパソコンをPCワンズというショップのBTOパソコン(Micro gear A3850/H)に買い替え。このパソコンは、その後SSD、ハードディスク、ブルーレイドライブをそれぞれ換装し、Windows 7から10にアップデートしたものの、現在もしっかり使えている。

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2012年2月、メインのカートリッジがテクニカのAT33PTG/IIとなる。後は2014年8月にモノラル・カートリッジを同じテクニカのAT33MONOにした程度で、同じ機器を大切に使い続ける日々が続いた。VRDS-25XSは2016年9月に不調となり、6万円かけて修理したが、結局2019年末までには再びエラー頻発となり処分。CDはパソコンで再生することにしたが、特に不満はなかった。DATデッキはしばらくぶりに使おうとしたら作動せず、2020年5月に処分。

2019年4月に関内のディスク・ユニオンのセールで『内山田洋とクール・ファイブ・ゴールデン・ヒット・デラックス16』を140円で買って衝撃を受けたことが、次の動きへの大きなきっかけとなった。彼らのレコードを集めるうち、8トラック・カートリッジ・オンリーの音源があることが発覚、入手したその『クールファイブ デラックス』を再生すべく、ソニー初のホーム・オーディオ用8トラック・カートリッジ再生専用機として1968年9月に発売された「カートリッジ プレーヤー8」TC-6をヤフオクで500円で落札した。2020年5月12日に到着、インジケーターがひとつ切れていてジャンク品扱いだったが、ヘッドのクリーニングが必要だったことを除けば、何の問題もなく使用できている。詳しくは「8トラック・カートリッジ・プレーヤー導入とカートリッジ・テープ修復の巻」を参照されたい。

そしてクール・ファイブのCD-4(ディスクリート4チャンネル)盤が増えたことで、知人の勧めもあり4チャンネル・ステレオの再生環境を構築していくことになった。ただし往時の4chアンプや現代の5.1chのAVアンプは使わず、従来のステレオ・システムにリア部を組み込む形での導入である。そこからの経緯は「CD-4を中心とした4チャンネル・レコードの再生」「新たな機材の導入でノイズのないディスクリート4チャンネル・レコードの再生が実現」「アストル・ピアソラ・コレクション紹介/ディスクリート4チャンネル再生のその後」「オーディオテクニカVM750SH ―CD-4再生用カートリッジとしての理想―」で紹介してきたが、かいつまんでまとめると次のようになる。まず2020年10月20日、リア再生用にメルカリで購入したタスカムのパワード・モニター・スピーカー、VL-S3が到着。

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Babyfaceのヘッドホン端子からリア・チャンネル分の音声が取り出せるので、パソコンでのマルチチャンネル音源(DVDやブルーレイなどの5.1ch音声をミキサーで4.0chにダウンミックスしたものや、SQ盤などのマトリクス音源のWAVファイルやMP3ファイルをデコード・ソフトで4ch化したもの)の再生が可能となった。

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当時のスピーカーの置き方はこんな感じだ。ビクターのMM型カートリッジMD-1016の中古とシバタ針のJICO 30-1Xの新品を用意し、10月29日にメンテナンス済みのビクターのディスク・ディモジュレーターCD4-30を、調整を施したAさんの事務所に引き取りに行った。

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LINTOの上がCD4-30。かくしてCD-4盤の再生環境は整ったが、MD-1016と30-1Xの組み合わせではCD-4盤特有の嫌なノイズが出やすかった。

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2021年2月14日、生産終了による在庫処分で安くなっていたオルトフォンの高出力MCカートリッジMC-3 Turboを入手し、ノイズ問題は解消に向かった。

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CD4-30はMM型フォノイコライザーとしての性能も優れていたからLINTOは手放し、MCカートリッジのAT33PTG/IIやAT33MONOをCD4-30でも聴けるようMC昇圧トランスとしてフェイズテックのT-3の中古を入手してみた(3月9日到着)。

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AT33PTG/IIはマイクロリニア針だからCD-4盤の再生もできるはずだったが、T-3を経由したCD4-30での4ch再生ではノイズが乗りやすかった。そんな折、CD4-30の上位機種であるCD4-10の改造機(中身を、耐ノイズ性能に優れた第3世代ディモジュレーター用ICチップを搭載した基板に換装したもの)をAさんから譲って貰えることになった。それは3月22日に到着し、ノイズの除去性能の高さを確認したが、T-3経由でのMCカートリッジの使用はやはり厳しかった。昇圧トランスがだめならMCヘッド・アンプはどうだろうと思い、ヤフオクで売られていたマーク・レビンソンJC-1DC(1974年発売)の回路をベースにしたという電池駆動式の自作ヘッド・アンプを入手。

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最初はいいように思えたが、結局CD-4盤の再生に関していえば、セパレーション調整がうまくできなかったり、正しく定位しないなどの問題が見つかり、トランス経由であれヘッドアンプ経由であれ、MCカートリッジによる4ch再生は実用的ではないという結論に達した。ということでMCカートリッジもトランスもヘッド・アンプも処分することにして、9月24日にテクニカのVM型(MM型と実質的に同じ)であるシバタ針のVM750SH(ステレオおよびCD-4用)と接合丸針のVM610MONO(モノラル用)を導入、これが大正解だった。

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ここまできて、簡易的に導入したリア・チャンネル用のVL-S3が非力となってきたので、リア用のアンプとして小型デジタル・プリメインのフライング・モールCA-S3を、スピーカーとしてモニター・オーディオのBronze BR1(2006年発売)をそれぞれ中古で調達。11月8日に揃い、格段にバランスが良くなった。

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12月18日、ユニバーサル・プレーヤーとして2004年製でアナログマルチ出力のあるオンキョーのDV-SP155を中古で入手。マルチチャンネルを含むSACDやdts-CDの再生が可能になった。

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これは現在のセッティングで、上が8トラック・カートリッジ・プレーヤーTC-6、その左はST930Sの電源部、下は左がCA-S3、右がDV-SP155。

2022年1月27日、調べ物をしていて意外な事実が判明した。オーディオテクニカのAT-MONO3/SPは、SP用であるにも関わらず、SP用のイコライザーカーブよりもRIAAでバランスよく聴けるように設計されているとテクニカの社員から聞いたという、複数の方からの証言に辿り着いたのである。なぜメーカーがそんな大事なことを公表しないのか謎だが、実際にCD4-10改で聴いてみたら、確かにバランスが良かった。道理でAT-MONO3/SPのMozart  PhonoでのSPカーブによる再生がイマイチだったはずだ。高出力とはいえMCだからか、とも思っていたがそういうことではなかった。Mozart PhonoはSP用として使えるだけでなく、RIAAに統一される前(1955年以前)の初期盤LPにも対応していたが(もともと機種的にはそちらがメイン)、そもそも手持ちの初期盤はごくわずか。カーブ切り替えの効果もそれほど感じていなかったので、こちらも処分することに。フォノ・ケーブルの繋ぎ換えも必要なくなってすっきりした。詳しくは「割れたSPレコードの修復、オーディオテクニカAT-MONO3/SPによるRIAAカーヴでの快適なSP再生」を参照されたい。バリレラ型のMC-4にも思い入れはあったが、これも結局処分した。

さて、ここまで書かなかったことだが、実はメイン(フロント)のシステムには以前から不満があった。いつの頃からかもうはっきりとわからないが、低域が弱いと感じるようになっていたのである。といって買い換える予算もなく、気にしないようにしていた。原因は年数の経ったMIMESIS SRかなと思ったりもしていた。それに対しCA-S3とBR1の組み合わせは、元気がいいばかりでなく、スピーカーも小さいのに低域が出過ぎるぐらいバンバン出てきて過剰なほど。4chで聴いても、通常の2chの音源を前後で鳴らしても、低域はグッとリアに寄り、フロントから低域がきちんと出ていないことが明白になってきた。それでもだましだまし聴いていたが、それも限界となり、もうMIMESIS SRは処分して(それでもある程度の金額では売れるだろうから)、その金額で別のアンプでも買おうか、と考えたのが8月26日のこと。とりあえずMIMESIS SRを外して繋ぎ換えようとしてBR1を702PMCの上に乗せ、ふとアンプからのケーブルを繋ぎ換えてみたところ、予想もしなかったことが起きた。

MIMESIS SR → Silver Oval(ケーブル)→ Bronze BR1…低域がちゃんと出る!

CA-S3 → Crosslink 1S(ケーブル)→ 702PMC…低域が出過ぎない!

というわけで、本などの詰まったラックの上にチョコンと乗せた小さなBR1がフロント(メイン)のスピーカーに、ごっついスタンドに乗った大き目の702PMCがリア(サラウンド)のスピーカーに、という普通ならありえないだろう形になった(CA-S3は入力1系統なので、CD4-10から、DV-SP155から、Babyfaceからのそれぞれのリア分のケーブルをその都度差し替えていて、いろいろ繋ぐ必要のあるメインには使えない)。それに伴い、スピーカーに囲まれたセンターに置かれた事務机を180度回転させたところ、ケーブルの引き回しや座る位置からの操作性など、いろいろ都合のいいことも多かった(詳しくは次のイラスト参照)。

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こちらがリアからフロントになったBronze BR1。

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リア・スピーカーとなった702PMC。これで前後のスピーカーの低域を含む全体の質は、厳密に言えばまったく同じということはないがかなり揃ったし、4chのイメージも定位もきちんと取れるようになった。なんでこんな風になったのかさっぱりわからないというのが正直なところだが、原因はMIMESIS SRではなく702PMCの方にあったと考えるのが自然だろうか。それにしても、当初はリア用に気軽に買ったBronze BR1が予想以上に頑張ってくれているのはうれしい誤算だった。通常のステレオ再生でも、超低域までは出ていないにしても必要な低域はしっかり出してくれるし、部屋のレイアウトや使い勝手からも、この大きさがちょうどいい。高域にピークが感じられ、ソースによってはちょっとキツイものもあるので、その解消が今後の課題ではある。

ということで、シンプルになってきた今のシステムを改めて書いておこう。

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レコード・プレーヤー:C.E.C. ST930S
ステレオ/4ch用カートリッジ:audio-technica VM750SH
モノラル用カートリッジ:audio-technica VM610MONO
SP盤用カートリッジ:audio-technica AT-MONO3/SP
ディスク・ディモジュレーター/フォノ・イコライザー:Victor CD4-10改
ユニバーサル・プレーヤー:Onkyo DV-SP155
プリメイン・アンプ(フロント用):Goldmund MIMESIS SR
プリメイン・アンプ(リア用):Flying Mole CA-S3
スピーカー(フロント用):Monitor Audio Bronze BR1
スピーカー(リア用):Monitor Audio 702PMC
カセット・デッキ:Pioneer T-D7
8トラック・カートリッジ・プレーヤー:Sony TC-6
オーディオ・インターフェイス:RME Babyface

2022年2月11日 (金)

割れたSPレコードの修復、オーディオテクニカAT-MONO3/SPによるRIAAカーヴでの快適なSP再生

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昨年(2021年)11月の初め、某タンゴ・コレクターが手放したSPレコードおよそ3,000枚の大整理大会が某所で行われ、某有名タンゴ関係者2名と共に作業にあたった。私はそこから100枚ちょっとを選び出して引き取らせていただいたのだが、その自宅での整理が1月の終わりにようやく終了。

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すべてデータベースに入力し、すべてを最低1回は聴き、従来の手持ちと合わせたすべて(430枚ほど)に管理番号を付けて演奏者別・録音またはリリース順に並べ、ケース21箱にピッタリ収めた。データベースをみれば、何がどの箱に入っているか一目瞭然。

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という作業の終盤で、遠くに手を伸ばして無造作に持ち上げようとした1枚が、パリンと割れてしまった。しかもレーベルを確認すると、アニバル・トロイロ楽団の「勝利 (Triunfal)」(ピアソラ作編曲)ではないか。よりによって貴重な1枚を…。

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しかし、奇麗に割れてくれたので、後日修復作業を敢行。

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アロンアルファでの接着作業は無事に終わり、裏にはみ出して表面にこびりついた接着剤を削り取り(下の画像の白くなっている部分)、針飛びする部分もカッターまで使って修復。スクラッチノイズは出るものの、無事に再生できた。

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ところで、今回入手した100枚以上のSP盤の中には、反っているものもかなりあった。SP再生用のカートリッジにはSonovoxのMC-4というバリレラ型のものをメインで使っていたが、カンチレバーがほぼフラットなので反った盤だとカートリッジのボディの腹の部分で盤をこすってしまう(画像に写っている盤は反っていないが)。

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ということで、普段使っていなかったaudio-technicaの高出力MCカートリッジAT-MONO3/SPに替えてみた。再生は安定するが、高域の音が強めに感じた(理由は後述)。

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オーディオテクニカと言えば、昨年9月に入手して前回(もう4か月前になってしまった)紹介した、大当たりのVM型ステレオ・カートリッジVM750SHと一緒に、モノラルのVM610MONO(針はVMN10CB)も買っていたが、これは針をVMN70SPに替えることで、SP用のモノラル・カートリッジVM670SPと同等になる。

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この交換針は未入手だが果たしてどんな感じなのだろうか、同じテクニカで価格帯がほぼ一緒のMC型とVM型というこの2つのSP用カートリッジを誰か比較していないものかと思い、ネットを検索してみたが、まったくヒットせず。

ところが、検索中に思いもかけずAT-MONO3/SPについての貴重な情報に辿り着いた。このカートリッジはSP用であるにもかかわらず、SP用のイコライザーカーヴよりもむしろ、RIAAカーヴでの再生に適応しているというのである!

最初にみつけたのは、現5ちゃんねるの掲示板「[78rpm]SPレコードの電気的再生方法[65μ]」にあった甘木さんという方(この方の使っているプレーヤーも私同様CECのST930だという)の2006年4月の書き込み。ここの752がそう(これに関するやりとりは765あたりまで続いている)。該当箇所を以下に抜粋しておく。

イコライザーはRIAAで聴いてみたのですが
同じ演奏の復刻CDと比べて違和感を感じる事も無く、
素晴らしかったです。そのため今もMONO3/SPを使っています。

でもRIAAで使えるのが不思議だったのでテクニカに問い合わせて
みたところ、設計者の方から「あれはRIAAでSPを聴けるように
設計したカートリッジです」というお返事をいただきました。

だったら、何故それを売りにしないのか?とも思いますが
RIAAのイコライザーがそのまま使えるので、便利だと思います。

ウチではMC-4と組み合わせるSP対応のフォノイコライザーアンプ(モノラル)として、Sound BoxのMozart Phonoをちょうど22年間使用してきた。モノラルLP/EP用に6つのイコライザーポジションを備えたベーシックモデルに対し、私がオーダーしたのはAESとNABを78 USAと78 EU(米国系と欧州系のSP用)に置き換えたSPイコライザー搭載モデルだった。

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ポジション毎のターンオーヴァー(低域増幅周波数)とロールオフ(高域減衰周波数)は以下の通りとなる。

COLUMBIA 750Hz / 1590Hz
RCA  800Hz / 3000Hz
LONDON (ffrr) 500Hz / 3000Hz
RIAA 500Hz / 2120Hz
78 USA 500Hz / -
78 EU 250Hz / -

SP用に使われてきたカーヴも厳密にはいろんなパターンがあり、ロールオフもフラットとは限らないが、搭載されていたのは上記の2パターン。最近のイコライザーカーヴ可変フォノイコは、ターンオーヴァーとロールオフ(周波数よりもデシベル刻みのものが多い)をそれぞれ切り替えて数多くの組み合わせパターンを作れるものが主流となっているが、Mozart Phonoを入手した当時は、そのようなものは見当たらなかったように思う(存在を知らなかっただけかも知れないが)。

それはともかく、AT-MONO3/SPで聴く場合でも、当然のように78 USAポジションを選んでいたわけで、なんとなくバランスが悪いからRIAAで聴いてみよう、などという発想は浮かびもしないまま、あまり使わずに来てしまったのである。そんなわけで先の書き込みを目にして慌てて試してみたら、なるほど確かにRIAAで聴くとしっくりくるではないか。MC-4を78 USAポジションで聴いた時と、AT-MONO3/SPをRIAAで聴いた時とで、同じようなバランスになる。今まで感じていた違和感が払拭され、今更ながらようやくこのカートリッジの真価が理解できた感じだが、それにしてもどうしてこんな重要なことが今まで知られていなかったのか。もちろん取扱説明書にもカタログにもそんなことは一切書かれていない。

そう思って更に検索すると、「黄金のアンコールの音楽とオーディオの部屋」というブログの2016年8月の「Technics SL1200GAE」という記事に辿り着いた。ここで黄金のアンコール氏は

AudioTechnica AT-MONO3/SPは、通常のRIAAフォノイコライザを通すと普通にSP盤がバランス良く再生出来るような仕様になっているので、RIAAカーブと異なるSP用のイコライザは要らない。そうやって再生されたSP盤の中には、聴き慣れた蓄音機再生よりも電気再生の方が良いじゃないか、と思わせるものも多々ある。

と書く。その根拠は?と思い、掲示板で質問したところ、「オーディオ・テクニカの社員の方から聞きました」との回答が得られた。情報源は5ちゃんねるの甘木氏と同じである。

発言の裏付けは取れたが、公表されていない謎は深まるばかり。そして、そのように調整されたAT-MONO3/SPに対して、LP用のVM610MONOとは本体が同じで針が異なるだけのVM670SPは、RIAAでの再生には特に対応していないと考えるのが自然だろう、という一応の結論に達した。

それはともかく、AT-MONO3/SPがRIAAで聴けるということは、使い勝手が格段に良くなることを意味する。これまでSPを聴く際には、普段は ST930からディモジュレーター兼フォノイコライザーのVictor CD4-10改に繋いでいるフォノケーブルとアースを、いちいちMozart Phonoに繋ぎ換える必要があった。また、MC-4は針圧15gなのでトーンアームのウエイトを軽いものに取り替える必要があったが、AT-MONO3/SPの針圧は標準5g(3gから7gまでが適正値内)で、他のテクニカのカートリッジ用と同じウエイトのままで6gまで掛けられる。

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そしてこれも重要なことだが、Mozart PhonoのRIAAポジションよりも、CD4-10改に繋いだ方が音がよかったのである(以前も書いたが、これはモノラル盤をVM610MONOで聴いた時も同様)。実を言うと、モノラル初期盤LP再生時のColumbiaカーヴ等へのポジション切り替えの効果も、耳のせいか機械のせいかよくわからないがあまり感じられず、ということで22年間世話になったMozart Phonoはシステムから外した(早速ヤフオクに出したら、意外と高く売れてしまった)。

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MC-4はSP用としては当面の間本来の音では聴けなくなるが、針をLP用(1milと0.7milの2種類ある)に替えれば、それはそれで使える。

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ST930からのケーブルは、もうCD4-10改に繋ぎっぱなしでいい。ウエイトも替えなくていい。

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カートリッジというかヘッドシェルをパッと付け替えて針圧さえ調整すれば、SPを聴いたりモノラル盤を聴いたりステレオ盤やCD-4盤を聴いたり、ストレスなく移行できる。

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いや、この効果は実に大きい。細かく突き詰めるのも時に大事だろうが、手軽に聴けることの大切さを実感している。

2021年10月13日 (水)

オーディオテクニカVM750SH ―CD-4再生用カートリッジとしての理想―

9月24日に新しいカートリッジ、オーディオテクニカのVM750SHがやってきて、それ以来愛聴盤を聴き直しては新たに感動するという日々を過ごしている。これは無垢シバタ針を備えたVM型(扱いはMM型と同じ)の上位機種だが、ディスクリート4チャンネル(CD-4)の再生においても、通常の2チャンネルステレオの再生においても、最高のパフォーマンスぶりを示してくれている。

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CD-4の再生については、これまで2月23日の「CD-4を中心とした4チャンネル・レコードの再生」、4月15日の「新たな機材の導入でノイズのないディスクリート4チャンネル・レコードの再生が実現」、9月19日の「アストル・ピアソラ・コレクション紹介/ディスクリート4チャンネル再生のその後」という3つの記事で紹介してきたが、実は2月23日の記事の最後の方で

現行のMMカートリッジの中では、オルトフォンの2M Bronze(無垢ファインライン針、20Hz~29kHz)、オーディオテクニカのVM750SH(無垢シバタ針、20Hz~27kHz)あたりがCD-4の再生に対応できそうだ。テクニカはMCカートリッジのAT33シリーズをずっとメインで使ってきたので、VM750SHもいつかは試してみたいものだが、当面はMC-3 Turboをじっくりと味わっていきたい。

と書いていた。このVM750SHは、時々お邪魔しているanalog BeatのJDさんも評価されるなど(該当記事はこちらこちら)音質面でとりわけ評判のいい機種だが、実際にCD-4の再生を試した実例はネット上にはなく(その後海外のフォーラムで一人これを推奨しているユーザーを発見)、果たしてCD-4の再生に威力を発揮してくれるか、一抹の不安はあった。もっとも、海外のQuadマニアの間では、テクニカのこれよりランクの下の機種のさらに旧タイプであるAT440MLb(シバタ針ではなくマイクロリニア針)というのが、ヴィンテージではない今のカートリッジの中でCD-4再生の定番となっているとのことなので、大丈夫だろうと思いつつ購入したわけである。そして購入を決断したのにはもうひとつ理由があった。2月の購入以来気に入って使っていた高出力MCカートリッジのortofon MC-3 Turboではあったが、内周近くでキャリア信号を読み切れずインジケーターが付いたり消えたりする盤が複数出てきたり、内周近くで歪みやすいのが気になり出していたのである。

そしてVM750SHを実際に聴いてビックリ。現在新品として入手できるカートリッジ(そもそもCD-4再生を謳った機種は皆無)としてはこれこそが最強と判断できるほどの能力の高さを瞬時に示してくれたのである。スペック上の再生周波数は上が27KHzだが、30KHzのキャリア信号を難なく読み取れることもあるのだろう、音の粒立ちがしっかりして定位の明確さが際立ち、歪みが少なく、情報量が多く、音楽を実に生き生きと表現してくれる。比べてしまうとMC-3 Turboは、ノイズ耐性は高いものの、残念ながらここまでの次元には達していなかった。

そしてこれはCD-4だけでなく、通常の2チャンネル再生にも言えることだった。単に音が良いだけでなく、コンディションの悪い盤、プレスに問題がありそうな盤をいかにまともに再生してくれるかというのを重要視しながら、この10年近く、同じテクニカのMC型AT33PTG/II(マイクロリニア針)とMC専用フォノイコライザーLINN LINTOの組み合わせをリファレンスにしてきたが、その組み合わせでもついぞ聴けなかった音が軽々と出てきたのには驚いた。歪みに強く、ノイズを抑え、必要な音は漏らさずきっちりと出してくるという、私が求める理想の姿がそこにはあった。もっともこれは、カートリッジ自体の性能だけでなく、シバタ針という針先の形状によるところも大きいかも知れないし、4月15日の記事で詳しく紹介したCD-4ディモジュレーター(兼フォノイコライザー)Victor CD4-10改造機との組み合わせも実にいい方向に作用しているようだ。

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実は今回同時に、同じシリーズのモノラルカートリッジVM610MONOも購入。これまで使っていたMC型AT33MONOの無垢丸針から接合丸針へとグレードダウンした形となったが、使い勝手などを考えてのこと。まだ十分には聴き込んでいないが、こちらもまったく問題なし。イコライザーカーヴ可変の管球式モノラル専用フォノイコライザーMozart Phonoよりも、RIAA固定だがCD4-10改(片チャンネルのみ使用)の方が、VM610MONOの持つ力はより明確に発揮されるようだ。

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昨年10月末の4チャンネル再生環境づくり開始からまもなく1年になるが、その間の変遷を表にすると次のようになる(AT33PTG/IIによるCD-4再生を目指しての、MC昇圧トランスやヘッドアンプの一時的な導入は省略)。

  カートリッジ ディモジュレーター
2020/10/29

Victor MD-1016+ JICO 30-1X


Victor CD4-30

2021/2/14

ortofon MC-3 Turbo

2021/3/22

Victor CD4-10改造機

2021/9/24

audio-technica VM750SH

ということで、VM750SHの導入でようやく一応の終着点に辿り着けた感じだ。しかも通常の2チャンネルステレオの再生環境まで進化したのだから、言うことはない。

2021年9月19日 (日)

アストル・ピアソラ・コレクション紹介/ディスクリート4チャンネル再生のその後

いろいろ書かねばならないことはあるのだが、クール・ファイブの連載だけでなく、なかなか思うように更新ができない。年とともに集中力がなくなってきているのも関係しているだろうか。ともあれ、最近のことを少しまとめておこう。

8月25日にはソニーから「アストル・ピアソラ・コレクション」全10タイトルが1枚1,400円というお買い得価格でリリースされ、選盤と解説(西村秀人さんと分担)を担当した。

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フランスのヴォーグ原盤が1枚、ミラン原盤が2枚、残り7枚がアルゼンチンRCA原盤。日本初紹介の音源はないが、ピアソラ史を彩る重要作が目白押しである。以下はその内容。

  • 『シンフォニア・デ・タンゴ』(SICP 6391)

1955年のパリ留学時、弦楽オーケストラ編成で録音した初のオリジナル・アルバム(10インチ)。オリジナル・モノラル・マスターを使用しての単独CDは世界初。

  • 『ピアソラ、ピアソラを弾く』(SICP 6385)

1960年に結成されたキンテート(五重奏団)による初のアルバム。「アディオス・ノニーノ」の初録音収録。ヴァイオリンはシモン・バジュール。

  • 『ピアソラか否か?』(SICP 6386)

古典タンゴのシンプルなアレンジを中心にしたキンテートのセカンド・アルバム(リリースはこちらが先)。ヴァイオリンはエルビーノ・バルダーロ。ボーナス・トラックとして歌手ダニエル・リオロボスとの2曲、エクトル・デ・ローサスとの4曲も収録。

  • 『レジーナ劇場のアストル・ピアソラ1970』(SICP 6387)

アントニオ・アグリ(ヴァイオリン)、カチョ・ティラオ(ギター)などを擁した最強のキンテートによる歴史的ライヴ。《ブエノスアイレスの四季》全曲収録、ピアソラ史上最高傑作。ボーナス・トラックとして映画『魂と生命をもって』サントラ4曲収録。

  • 『五重奏のためのコンチェルト』(SICP 6388)

キンテート10周年を記念したタイトル曲ほかと、ピアソラの敬愛する音楽家/作品に捧げた貴重なバンドネオン・ソロ(1曲のみレオポルド・フェデリコらとの四重奏)の組み合わせによる名盤。ボーナス・トラックとしてバンドネオン多重録音1曲、師アニバル・トロイロとのバンドネオン・デュオ2曲収録。

  • 『ブエノスアイレス市の現代ポピュラー音楽 第一集』(SICP 6389) 
  • 『ブエノスアイレス市の現代ポピュラー音楽 第二集』(SICP 6390)

ピアソラ究極のアンサンブル、コンフント9(ヌエベ)による傑作2タイトル。ピアノは第一集(1971年12月録音)がオスバルド・マンシ、第二集(1972年7月録音)がオスバルド・タランティーノ。第二集にはボーナス・トラック3曲収録。

  • 『天使の死~オデオン劇場1973~』(SICP 6392)

コンフント9解散後の1973年、オスバルド・タランティーノを擁したキンテートが残した貴重かつ壮絶なライヴ音源(1997年にミランからCD化)。実はブエノスアイレスのオデオン劇場での録音ではなかった? 真相は解説に。

  • 『ピアソラ=ゴジェネチェ・ライヴ1982』(SICP 6393)

イタリアでのエレクトリック・ピアソラ期を経て再結成されたキンテートによる1982年のライヴ。唯一無二のタンゴ歌手、ロベルト・ゴジェネチェとの貴重な共演を含む。ボーナス・トラックとしてピアソラ=ゴジェネチェ1969年のスタジオ録音「ロコへのバラード」他3曲収録。

  • 『バンドネオン・シンフォニコ~アストル・ピアソラ・ラスト・コンサート』(SICP 6394)

パリで脳梗塞に倒れる1か月前、生涯最後のコンサートは奇跡的に録音されていた! ギリシャの名匠マノス・ハジダキス、アテネ・カラーズ・オーケストラとの共演によるシンフォニー。

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9月に入り、ジャンルは全く異なるが、かつて親しくさせていただいたお二方の訃報が舞い込んでしまった。まずは日本を代表する名タンゴ歌手で、レコード・プロデューサーでもあった阿保郁夫さん。両面で素晴らしい実績を遺されたが、私のピアソラに関する執筆や復刻を褒めてくださったのも懐かしい想い出だ。もう一人は、吉野大作&プロスティテュートなどのベーシストで、水すましというバンドでは実際にご一緒されていただいた高橋ヨーカイさん。一時死亡説が流れ、心配はしていたのだが、何とも寂しい。

さて、今日書かねばと思ったのは、4月15日にアップした「新たな機材の導入でノイズのないディスクリート4チャンネル・レコードの再生が実現」の続きである。最後の方で

MC-3 Turboは出力電圧3.3mVの高出力MCカートリッジだから、ディモジュレーターのMM入力端子に直接繋ぐのが適切な接続方法なのだろうが、いろいろ試していて、繋ぎ換えが面倒だったのでヘッドアンプを挟んだ状態のままで鳴らしてみたら、何とこれがベストだった。

と書いたが、これが正しいやり方ではなかったことに気付いたので、私のやり方を参考にしている方はよもやいらっしゃらないとは思うが、訂正しておく必要を感じたというわけだ。

シバタ針やラインコンタクト針を持ったカートリッジでディスクリート4チャンネル(CD-4)再生をする際は、カートリッジごとにCD-4ディモジュレーターのセパレーション調整をしなければならない。それはわかっていたのだが、MC-3 Turboをヘッドアップなしで直接接続した状態でセパレーション調整したまま、ヘッドアンプ経由で聴いていたのが問題だった。どうも前後のセパレーションが十分ではないような感じは受けていたのだが、8月の終わりに入手した”CD-4 Quadraphonic Experience” (WEA 228 008 (F))というドイツ盤オムニバスに含まれている、4か国語によるアナウンスなどを含むデモンストレーション・トラックを再生していて、定位がけっこうメチャクチャになっていたのに気付いた。

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早速セパレーション調整を行ったが、左右ともレベルをいっぱいまで下げても合わせ切らない感じになってしまった。30KHzのキャリア信号を拾って点灯するインジケーターも時々弱くなったり消えたりする。これはAT33PTG/II→ヘッドアンプでも同様だった。MCカートリッジをディモジュレーターのMM入力に入れる際にヘッドアンプや昇圧トランスを通すと、どうもキャリア信号の読み取りに支障が出やすいようだ。やはりCD-4再生にはMMカートリッジか高出力MCカートリッジということになるのか。ということで、MC-3 Turboからはヘッドアンプを通さず、直接CD4-10改造機に送ることにした。これでひとまず解決。

MC-3 Turboと「CD4-392」ICチップを搭載したCD4-10改造機の組み合わせにしてから、CD-4盤特有のノイズに悩まされることはほぼなくなったが、それでも針先や盤の汚れにはすこぶる敏感であることに変わりはない。盤のクリーニングにはVPIのバキュームクリーナーとオヤッグのレコードクリーナー液の組み合わせ、針先の汚れにはDS AudioのST-50が欠かせない。

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2021年4月15日 (木)

新たな機材の導入でノイズのないディスクリート4チャンネル・レコードの再生が実現

※過去の記事『CD-4を中心とした4チャンネル・レコードの再生』と併せてお読みください。

2月23日に前掲記事をアップした際、最後に「CD4-30をフォノイコとしての通常のステレオ盤再生もいい感じなので」と書いた。これは実際にその通りで、調整されたAさんによればはっきりとした理由があるという。

「RIAA補正というのは御存じのように、レコード作成時に低域を抑え、高域を持ち上げた特性でレコード溝を作成し、再生時にイコライザアンプで低域をブーストし、高域をカットして録音時と同じ平坦な特性に戻すことを指します。
イコライザアンプは世界規約であるRIAA特性カーブを忠実に補正(イコライズ)するのが一番重要な要素となるので、高級アンプでは高価な誤差の少ないコンデンサや抵抗部品をあえて使用して実現させています。
通常のプリアンプ部では一つのイコライザ回路でこれをやるのですが、RIAA特性をさらに忠実に再現するため、さらに高級なアンプでは低域のブースト部と高域のカット部を分けた2段構成のイコライザアンプを用意して、低歪率と正確なRIAA補正を実現しています。
CD-4デモジュレータではイコライザアンプで高域をカットしたら30KHzで変調された4CHのサブ信号がなくなってしまうことになりますので、何と超高級アンプに使用されている方法と同じ2段構成のイコライザアンプを用意しているのです。
(中略)
CD-4デモジュレータには2CH出力に切り替えられるスイッチポジションもありますから、MMカートリッジでレコードを聴きたいなら高価なイコライザアンプを用意しなくても、4CHとか関係なしに落札されずに残っているCD-4デモジュレータが一番お勧めとなります。
でも世間の人は、CD-4デモジュレータとイコライザアンプは別物と思っている人が多いようですが・・」

ということで、長年愛用してきたMC専用のフォノイコライザー、LINNのLINTOは思い切って手放すことにした。そしてメインのMCカートリッジであるaudio-technicaのAT33PTG/IIやモノラル用カートリッジの同AT33MONOをCD4-30でも鳴らせるよう、初めてのMC昇圧トランスの購入を検討し、Phase TechのT-3の中古をヤフオクで落札。それが届いたのが3月8日だった。

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一聴して実在感が増した感じで、最初の感触は良かった。

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AT33PTG/IIはマイクロリニア針(ラインコンタクト針の一種)で再生周波数15~50,000Hzだったので、実際に繋いでみてCD-4盤の4ch再生も可能なことがわかったが、残念ながらノイズが乗りやすかった。

そのノイズの原因を探っていた矢先、またもやAさんから中澤さん経由で願ってもいない情報がもたらされた。とある4chレシーヴァーに第3世代ディモジュレーター用の例の「CD4-392」ICチップが搭載されていることに気付き、「IC自体が生きている事は確認出来たそうで、今後、それの載った基板を単体CD-4デモジュレイターに移植して使えるかどうかを探っていく」のだという。それが3月17日の夜のこと。その夜遅くAさんにリクエストを送り、「うまく動作させられるかは現時点では未知数です。移植先としてはCD4-10のケースを使用することを考えています。うまくいったときには改めてお声かけさせていただきます」とのお返事を頂いたのが18日の午前中。それがなんと19日の夕方には「作業が完了しました」とのメールが届いたので驚いてしまった。ただし予定よりも費用が掛かってしまったので、とりあえず貸し出すから使ってみてほしいとのことで送っていただき、3月22日の午前中に到着。

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早速そのCD4-10“改造機”をセッティングし、ortofon MC-3 Turboで聴いてみて、ノイズの除去性能が極めて高いことを瞬時に確認できた。ノイズに強いMC-3 Turboでの再生であっても、盤によって特にそれまで目立っていた、ハイハットやシンバル、サ行、その他高音部への強烈な付帯ノイズはほぼ完璧に消え、チリチリしたノイズも目立たなくなり、結果的に全体の見通しがぐんと良くなった。

具体的にどのような改造が行われたのか。まず、Aさん提供によるデフォルトのCD4-10の内部写真を見てみよう(キャプションもAさんによる)。

Cd410
・左側基板:電源基板
・中央大きな基板:CD4デコーダ及びANR(Auto Noise Reduction)回路基板
・上部基板:信号分離用基板

ここに、レシーヴァーから取り出した、CD4-392を搭載した次の基板を組み込むのだという(これも画像はAさん提供)。

Cd4392

CD4-392の特徴をまとめると、「PLL(Phase Locked Loop)内蔵でCD4デモジュレート機能はもちろんの事30KHzキャリア信号の自動補正機能、ANR(Auto Noise Reduction)機能、信号分離・混合機能まですべて含んだものであり、第二世代のCD4-10やCD4-30の機能のほとんどがこのICの中で実現されてしまっていることになる」とのこと。技術的なことは私にはわからないのだが、Aさんの詳細な改造作業メモから、作業工程の大まかな要点を私なりに整理してみた。

(1) レシーヴァー側のマザー基板を調査し、CD4ディモジュレーター基板ソケットの役割を見つける

(2) CD4-10の改造:使用しない基板の撤去、電源部のメンテナンス、配線、ランプのLED化など

(3) CD4-392 ICチップ使用のデコーダー基板組み込み、調整

改造後の内部はこんな感じで(Aさん提供画像はここまで)、本来の基板のうち「利用するのは電源基板と第一イコライザ基板(RIAAのLOW-UP)のみ」で、組み込まれた上部の基板にディモジュレーター機能が集約されているため、このようにスカスカになるのだという。

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改造の効果は絶大だったが、そもそもなぜこのような七面倒くさい改造が必要なのか。CD4-392 ICチップを使用したディモジュレーターを最初から探せばいいのではないか、と思われるかも知れないが、そのようなものは手の届くところには存在していないのだ。1974年、CD4-392の開発によりCD-4再生の大きな弱点であったノイズ発生が克服されたというのに、その事実も知られないまま、既に4chは終焉期を迎え、各オーディオメーカーも見切りをつけていた。それでもビクターからは業務用のCD4-1000(当時の価格で48万円!)が出て、1976年にはその設計思想を受け継いだという民生用ディモジュレーターの最終機CD4-50(99,800円)が登場したが、受注生産品であり、幻の存在と化しているという。ただしCD4-392を載せた基板は、いくつかのレシーヴァーにひっそりと使用されていた。なのでこの改造は、そうした現実に即しているという意味で理に叶っているというわけだ。

CD-4の再生能力のみならず、CD4-10改造機はフォノイコライザーとしての性能も向上しているように感じたが、これについてAさんからは「CD4-392 ICには前後の和信号と差信号をMIXする部分も搭載しているので、ロールオフ部はCD4-392の基板上になります。ローアップのイコライザ部は底蓋を開けると見えます。CD4-30ではオペアンプを使用した簡易型のものでしたが、CD4-10では3石ディスクリート構成の立派なものが搭載されています」とのコメントを頂いた。

ただし、通常の2chステレオはともかく、AT33PTG/IIから昇圧トランスT-3を経由してのCD-4再生は、期待してみたもののやはり無理だった。CD4-30で聴くよりはだいぶまともだったが、内周近くでは全体にノイズが乗り、歪みっぽくなってしまう(後に判明したその理由については後述)。トランス経由での再生について、改造機をリクエストした際にAさんに尋ねてみたところ、Aさん自身はトランス経由でCD4再生した経験はないと前置きされた上で「トランスはインダクタンスを持っており、周波数が上がればインピーダンスが増加します。なのでCD4のように50KHzまで平坦な特性が要求される用途には不向きであるような気がします」との返答を得ていた。

ということで、昇圧トランスに換えてMCヘッドアンプの導入を検討することになった。VenetorのVT-MCTLというのが良さそうだったが、8万円台ではいかんせん高過ぎ、というか予算がない。ヤフオクで検索してみても、トランスと比較してヘッドアンプの選択肢はより少ない感じだったのだが、マークレビンソン JC-1DC(1974年発売)の回路をベースにしたという電池駆動式の自作ヘッドアンプが目に留まった。即決価格27,000円で、コンスタントに売れているようだった。評価欄のコメントのみが頼りだったが、思い切って落札し、3月29日に到着。

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CD4-10改造機の上に載っているのが、その無印のヘッドアンプ。実は昇圧トランスのノイズの原因の一つは、AT33PTG/IIを取り付けたカートリッジとアームとの接点の汚れだったことが後からわかったのだが、それを解決してもノイズは完全には消えなかった。結局昇圧トランスは入手から1か月足らずで手放すことになったが、ヘッドアンプとの聴き比べの様子を以下にまとめておく。ハムノイズが出やすいのはトランスの方で、ヘッドアンプはヴォリュームを最大にしても問題なかった。

AT33PTG/IIからのステレオ再生:
トランスとヘッドアンプでは一長一短。ポップス系のマルチトラックレコーディングではトランスにやや分があった。太田裕美のシングル「九月の雨」の右チャンネルのギターのカッティングがトランスでは浮き上がって聴こえるが、ヘッドアンプでは埋もれがち。一方タンゴやクラシックなどのアコースティック録音の表現力はヘッドアンプの方が上だった。この結果は予想とは逆だった。

AT33PTG/IIからの4ch再生:
トランスよりヘッドアンプの方が、ノイズの出方はいくらか抑えられた。このノイズというのは、CD4-30での再生時にみられた、CD-4盤特有の不快なノイズとはまったく性格が異なり、ひび割れ、ザラツキ、かすれのようなものであり、特定の盤、特定の個所に現れる。また、キャリア信号を読み取るレーダーランプが時折弱くなることがある。

AT33MONOからのモノラル再生:
トランスとヘッドアンプの違いよりも(あまり突き詰めて比較しなかったが)、CD4-10の片チャンネル再生とMozart Phono(管球式モノラル専用フォノイコライザー)の違いの方がいくらか大きく、RIAAカーヴに限定すればCD4-10の方がより生き生きと鳴る。

MC-3 Turboによる再生:
ステレオであれ4chであれ、AT33PTG/IIを遥かに凌駕するクリアでワイドで生き生きとした再生能力を発揮。この差はなんだろう。そもそもAT33PTG/IIを長年リファレンスとして使ってきたのは、ソースや盤のコンディションをあまり選ばず、クリアでフラットな再生をしてくれるところが気に入っていたからなのだが、そのお株をすべてMC-3 Turboに奪われた形になってしまった。だとすると、今使っているAT33PTG/IIには何か問題があるのだろうか。今のは二代目で、2019年6月に新品で購入したもの。針先はジェルタイプのスタイラスクリーナー(DS Audio ST-50)で常にきれいにしているので、トラブルは考えにくいのだが。

MC-3 Turboは出力電圧3.3mVの高出力MCカートリッジだから、ディモジュレーターのMM入力端子に直接繋ぐのが適切な接続方法なのだろうが、いろいろ試していて、繋ぎ換えが面倒だったのでヘッドアンプを挟んだ状態のままで鳴らしてみたら、何とこれがベストだった。ヘッドアンプを通すことで余裕が生まれるのだろう、ステレオでも4chでも、より堂々とした力強い表現が聴けるようになったし、ノイズにも更に強くなった。主にAT33PTG/IIのために用意したヘッドアンプがMC-3 Turboのよりよい再生に役立つとは、まったく思いも寄らなかったことだが、結果良ければすべて良し。ノイズと無縁になったCD-4サウンドを最強の組み合わせで聴けるのは実に恵まれたことだが、この感動を容易に他者と分かち合えないのが歯がゆくもある。

【2021年9月19日追記】上に書いた、ヘッドアンプを通してのMC-3 Turboの再生には問題があることが判明した。詳しくは9月18日の記事「アストル・ピアソラ・コレクション紹介/ディスクリート4チャンネル再生のその後」を併読されたい。

2021年2月23日 (火)

CD-4を中心とした4チャンネル・レコードの再生

オーディオの黒歴史とすら言われた4チャンネル・レコードの再生環境づくりが進んでいる。きっかけは、昨年(2020年)10月4日のFacebookへの次の書き込みだった。

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家では4チャンネルを聴ける環境にないのに、「資料だから」と集めているクール・ファイブの4ch盤。それでも、通常のステレオで聴いてもミックス違いが楽しめる曲もある。鳴り物入りでの発売から衰退までが短かった4chだが、ちょうど彼らの全盛期とダブっているので、全部で15タイトルも出ている。先日ようやくここまで揃った。残りはライヴ1種、カヴァー2種だから、彼らのオリジナル曲は一応カヴァーできたことになる。

これを書いた時点では、実際に“4チャンネルを聴ける環境”が作れるとはまったく考えていなかったし、どうすればいいかという知識もなかった。ところが、これに対して「是非、家で4chを聴ける環境にしましょう」とコメントしてきたのが、“4ちゃんねらー”として4チャンネル愛好家に知られる中澤邦明氏であった。躊躇する私に「リアスピーカーは小さいものでもいいと思います。後ろから音を出せる事が重要なので」と畳み掛けられ、心が大きく動いた。もしかしたら実現できるのか?

1970年代前半に登場した4チャンネル・レコードには、大きく分けて2つの方式があった。ひとつは周波数シフト応用のディスクリート(完全分離)方式で、ビクターが開発し商品化したCD-4が代表的なもの。もうひとつは位相シフト応用のマトリクス方式で、サンスイが開発したQSとそこから派生して業界の標準となったRM(レギュラー・マトリクス)、ソニーと米CBSが提唱したSQが中心だが、互換性が確保されながらも微妙に異なる他の方式もある。こうした方式の乱立ぶりとソフトの不揃いさが音楽ファン、オーディオ・ファンの間での混乱を招き、普及を妨げた大きな要因であるとは、広く言われていることである。

SQおよびQS/RM方式のレコードは、通常の2チャンネル・ステレオとしても再生できるが、クール・ファイブはRCAからのリリースだから、4ch盤はCD-4方式である。ステレオ再生は可能だが盤がダメージを受けやすく、あまり勧められるものではない(詳しくは後述)。中澤さんがまず教えてくれたのは、CD-4の再生には何が必要で、それを入手するにはどうすればいいかということだった。

CD-4は、左右それぞれのチャンネルの可聴帯域(20Hz~15kHz)にフロント+リアの和信号、可聴帯域外である30kHzのキャリア(搬送波)にFM変調された差信号が記録されているため、その帯域以上を読み取れる特殊なレコード針(シバタ針またはラインコンタクト針)を備えたカートリッジと、そこからの信号をフォノイコライザー機能も兼ねながら4チャンネル分の信号に復調して出力するディスク・ディモジュレーターが必要だ。対応するMM型カートリッジは、当時ビクターが開発し主力商品としたMD-1016の中古が比較的出回っているのでそれを入手できればよく、針に関してはビクターの4ch用シバタ針4DT-1Xと同等品のJICO 30-1Xが今でも新品として買えるということだった。

問題はディモジュレーターの方だが、中澤さんから思いがけない情報が得られた。多くはジャンク品としてオークションに出品されているディモジュレーターや4chアンプなど1970年代当時の機器を落札しては修理・調整してしまうという奇特な方と知り合いになり、中澤さんにとって“4chの師匠”だというそのAさんに、周囲で4chに興味を持った人を既に何人も紹介しているというのだ。機器の良し悪しも修理に関しても皆目見当がつかないこちらとしては、これ程ありがたい話はない。早速問い合わせてもらうと、修理済みのビクターのディモジュレーターCD4-30(1972年秋の発売。ちなみに海外でのブランドと品番はJVC 4DD-5)が1台あるという。これを適価で譲って頂けることになった。

さて、入り口の方はわかったが、出口まで、つまりアンプとスピーカーをどうするか。予算やスペースの問題もあり、往年の4chアンプもしくは現在普及している5.1chのAVシステムを導入して、システムを肥大化させるつもりはなかった。現在のオーディオシステムをそのままフロント部として使い、簡易的なリア部をそこに組み込んでしまえばいいと考えたわけで、ヒントになったのは、先に紹介した中澤さんの「リアスピーカーは小さいものでもいいと思います」の一言だった。当初4chなんて無理と思っていたのは、リアスピーカーなんて置く場所もないと考えていたからだが、卓上タイプの小さいものなら、可動式CDラックの上に置けそうだ。もともと部屋のオーディオはニアフィールド・リスニング用のセッティングだから、スピーカーは隅に置くのではなく、中央寄りに小ぢんまりと置けばいいのではないか。ということでアンプ内蔵のパワードモニタースピーカーで手軽な物はないかなと検討し、TASCAMのVL-S3に決定。実売9,000円程度だが、メルカリで6,000円で買えた。

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CD4-30をAさんのところに引き取りに行く1週間ほど前にVL-S3が届いたので、パソコンからの4ch再生を先に始めることになった。パソコンからの再生については、パソコンとオーディオを繋いでデジタル⇔アナログ変換を担うオーディオ・インターフェイスとしてRMEのBabyfaceを使っていたのが、結果的に大変役に立った。調べてみると、パソコン上のBabyface用オーディオミキサーTotalMix Fxで、パソコンで再生したDVDやブルーレイの5.1chを4.0チャンネルにダウンミックスすることが可能だった。そしてBabyfaceのアナログ側のステレオ入出力ケーブルはオーディオ・アンプのテープ入出力端子と繋いでいるのだが、それとは別にリアの音声をヘッドホン端子から取り出せることがわかった。前後のヴォリュームは別々に調整しなければならないが、分けて出せればとりあえずOK。

また、SQ/QSデコーダーがなくても、パソコンに取り込んだマトリクス音源(エンコードされたものであれば、ソースはLPでもCDでもYouTubeでも良い)のWAVファイルをデコードソフトを使って4ch化できることもわかった。これを実践するにあたり、尾上祐一さんのブログ記事『昔あった4チャンネル・ステレオ・レコードを聴く』が大変参考になった。4chレコードで一番流通量が多いのがCBS・ソニーのSQ盤だが、手持ちは多くないので、このやり方で今のところ間に合っている。

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そして10月29日、念願のCD4-30をAさんの事務所から持ち帰ってセッティング。Facebookには翌日このように報告した。

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昨日、調整済みのビクターのCD-4ディモジュレーター、CD4-30が我が家にやってきた(CD-4は、日本ビクターが開発したディスクリート方式4チャンネル・レコード)。準備しておいたCD-4用カートリッジ(MD-1016+JICOの新品シバタ針30-1X)をセットし、セパレーション調整を行い、ついに再生環境が整った。その2日前までには、ビクターが1972年から75年にかけて国内向けに制作したタンゴの4チャンネル・レコード、それも状態の良いもの9点が一気に揃えられたのも嬉しかった。ということで我が家でのCD-4リスニングはこの25枚(+テスト・レコード1枚)からスタート。

かくしてCD-4の再生環境が整ったのだが、いろいろと気になることも出てきた。一番厄介だったのは、特に内周部のレベルの高い部分に頻繁に付帯するバリバリという非常に耳障りなノイズだ。CD-4盤は高周波数帯まで再生する必要もあり、線速度が遅くなるだけでもノイズの影響を受けやすく、キャリアの読み取り精度も落ちることから、内周の送り溝の部分は通常のレコードよりも幅を広くしてある。

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それでも中古のCD-4盤には、見た目は奇麗でも実際に4チャンネル再生すると酷いノイズを発生する盤も多いと聞いていた。専用ではない一般のカートリッジを使い、針先の形状と針圧が適切でなかった場合にダメージを受けやすいというのが主な原因のようだ。

本来CD-4盤の再生には、専用のカートリッジを使用しなければならないはずだった。Aさんがディモジュレーターのおまけに付けてくれた調整用テスト・レコードには「このレコードは、CD-4用カートリッジで再生して下さい。従来のステレオ用カートリッジでこのレコードを演奏しますとレコードを痛めますので絶対に御使用にならぬようお願い致します(針圧は2.0g以下で演奏して下さい)」との注意書きがあった。だが実際に商品として販売されたものには「このレコードを従来のステレオ装置にかけますと、2チャンネル・ステレオとしてお楽しみいただけます」と書かれた下に小さく「将来、4チャンネルでお聞きになる場合も考えて、できるだけ針圧の軽いピック・アップをご使用ください」と遠慮がちに書いてあり、米RCAのquadradisc(CD-4の商標)にも"THIS COMPATIBLE STEREO / 4-CHANNEL RECORD is designed for performance on stereo or discrete CD-4 quadraphonic systems"と書いてあった。恐らくは間口を広げないとなかなか売上げに結びつかないという事情が背景にあったのではないかと推察される。

もともと4chは定位が不明確になりがちだが、もうひとつ気になったのが、フロント左右の音量差。どうも右が弱いので、ヴォーカルがセンターに定位せず左に寄ってしまい(リアは問題なし)、原因もこの時はわからないまま。先のノイズの発生率の高さ、スクラッチノイズがやたら増幅される点などとも相まって、落ち着いて音楽に没頭できる雰囲気ではなくなり、段々と聴く機会も減っていってしまった。

そんな折の12月下旬、またも中澤さん経由でAさんから驚くべき情報がもたらされた。要約すると、私も入手したCD4-30はビクターのディモジュレーターの中でも第2世代に当たり、普及率は高かったが耐ノイズ性能にはまだ問題があったという。1975年に登場した第3世代ディモジュレーター用のCD4-392というICチップでは大幅な改善がみられたが、既にCD-4の衰退期にあたり、これが使われた機器はほとんど普及せず、あっても非常に高価である。Aさんは、たまたま入手した「名もない4チャンネルレシーバー」にそのICチップを載せた基板が使われているのを発見し、手持ちのCD4-10(CD4-30と同世代の上位機)を改造してその基板を移植してみたところ、ノイズが酷くて死蔵していたレコードや、内周付近でノイズが目立っていたレコードが「全くノイズを発生することなく再生可能となった」というのである。

この話に私も色めき立ったが、かといってどうすることもできない。私なりに調べてみたところ、そのICを載せた基板が使われた機種はいくつか特定できたが、いずれもサンスイやアカイといった国産メーカー製ながら、海外市場向けで日本国内では販売されておらず、eBayなどに出ていても高価である。海外(主に米国)向けということは、向こうの方が4ch衰退の速度が緩やかだったということだろう。

中澤さんが年末から年始にかけて、Aさんが改造したそのCD4-10を自宅で試聴しレポートされていたが、その中で気になったのが「カートリッジをオルトフォンMC-3 Turboに交換する事でもノイズをかなり減らす事が出来ました」と書かれた部分。中澤さんは、ファインライン針(=ラインコンタクト針)付きでフォノイコライザーのMM入力に直結できる高出力MCカートリッジであるMC-3 Turbo(海外では1997年、国内では1999年発売)を、安くなっていたから4ch用ではない普段聴き用のカートリッジとして買ったのに、再生周波数帯域20Hz~30kHzというスペックをみてCD-4を再生できるのではないかと思い、試してみたところ問題なく再生できてしまった、という話だった(これは昨年11月の話)。だが、改造版CD4-10との相乗効果の話としては、この時点では私はまだディモジュレーターの改造による改善の方に気を取られていたのだった。だから、1月24日の時点で中澤さんの「残念ながら、MC-3 Turboは生産終了だそうです」という書き込みを目にした時も、そうか、ぐらいにしか思わなかった。

それが一変するのは、2月13日のこと。中澤さんが、生産終了になったMC-3 Turboが某ショップの通販で61%引きの17,800円で売られている、在庫処分だろうから買うなら今のうちだと教えてくれたのだ。書き込みがあったのが午前3時前。朝その情報を見た私が「通常の第2世代ディモジュレーターではビクターのカートリッジと比較してどうですか?」と質問したところ、「私はこちらの方が良いと思いました。なんと言っても、経年劣化に怯えなくてもいいというのが利点です」との答え。これはもう買うしかあるまい。11時過ぎに注文を済ませ、18時にはもう販売は終了していた。危なかった。

翌2月14日、商品が無事到着。早速余っていたオーディオテクニカのヘッドシェルに取り付けて音出し。いきなり衝撃を受けて、思わずFacebookの4チャンネルのグループにこう書き込んだ。

Img_9034

いやこれ凄い! まだ聴き始めたばかりですが、音がクッキリして空間表現力に優れ、ノイズが激減しました。
思うに、私の買ったMD-1016+4DT-1Xは明らかに問題があったような気がします。

あれほど悩まされていた嫌なノイズが、100%とは言わないが90%以上消えたのだから、驚くやら嬉しいやら。これがディスクリート4チャンネルの世界かと、その表現に初めて納得がいった。第3世代ディモジュレーター用のICチップに頼らずとも、ここまで再生できれば何の文句もない。MC-3 Turboと完璧に調整されたCD4-30との組み合わせは、実に強力だったのだ。MD-1016の方は、往年の名器とはいえ、個体差はあるだろうが少なくとも私の入手したものに限って言えば、さすがに経年劣化はかなりのものだったようだ。

そして、これは私一人の感想ではなかった。私にとって4ch再生では中澤さん同様先輩にあたるKさんも同時にMC-3 Turboを購入され、「こ、これは凄い!ノイズ感ゼロで、低域もふくよか。もう4MD-1Xに戻れない!」「なんと今までのビクターのカートリッジと比べようもないノイズと歪み感のないすばらしい4チャンネル再生。コレクション、全部聴き直します!」とFacebookにコメントされたのである。ちなみに4MD-1Xというのは、当時MD-1016と4DT-1Xとのセット販売の際に付けられた品番。

さて、このように高いポテンシャルをいきなり発揮したMC-3 Turboだが、4ch再生についての評価をネットで探してみても、何も見つからなかった。見つけたと思ったら、どれも中澤さんが書かれたと思われるものばかりだった。もちろんオルトフォンはこのカートリッジをCD-4再生可能という名目で売っていたわけではない。中澤さんも偶然発見したわけだが、今まで本当に、誰一人としてそのことに気付かなかったのだろうか。

もっともこれは日本国内での話。海外のフォーラム quadraphonicquad.com を覗いてみてもMC-3 Turboの名前を挙げていたのは見つけた限りではオルトフォンの米国でのディーラーだという一人だけだったが(書き込みはこちら)、海外の根強いCD-4ユーザーの間では、オルトフォンのMC(例えばMC20 Super)を含めた様々なカートリッジが使われていることがわかった。原則的にシバタ針かラインコンタクト針のものに限るのは自明として、使用例が報告されているカートリッジの中には周波数帯域の上限が30kHzに満たないものも含まれているのだが、これについてはある人が、カタログに載っているスペックは最低保証で実際にはそれ以上の対応能力があるので、30kHzのキャリア信号も大抵読み取れると書いていた。むしろMCおよび組み合わせる昇圧トランスからの出力レベルが高すぎたり低かったり、トランス不要の高出力MCが実際にはディモジュレーター側から見て必要なレベルに満たないことなどにより、うまく動作しないこともあるとのことだ。そこでのいくつかの情報から拾い出すと、現行のMMカートリッジの中では、オルトフォンの2M Bronze(無垢ファインライン針、20Hz~29kHz)、オーディオテクニカのVM750SH(無垢シバタ針、20Hz~27kHz)あたりがCD-4の再生に対応できそうだ。テクニカはMCカートリッジのAT33シリーズをずっとメインで使ってきたので、VM750SHもいつかは試してみたいものだが、当面はMC-3 Turboをじっくりと味わっていきたい。CD4-30をフォノイコとしての通常のステレオ盤再生もいい感じなので。

2020年7月28日 (火)

8トラック・カートリッジの成り立ちと当時のミュージック・テープ事情

今回は、6月2日にアップした記事「8トラック・カートリッジ・プレーヤー導入とカートリッジ・テープ修復の巻」でも触れた、内山田洋とクール・ファイブの8トラック・カートリッジ『クールファイブ デラックス』(アポロン)を紹介する予定だったが、その前提として8トラック・カートリッジの成り立ちと当時のミュージック・テープ事情について書き始めたところ、とても長くなってしまったので、結局『クールファイブ デラックス』の紹介は次回に回すことにした。

始めにお断りしておくと、本来であれば今回書いた内容は、国立国会図書館に赴くなどして各レコード/テープ・メーカーの総目録や雑誌『テープ・マンスリー』、ドライバー向けに出ていたという8トラックの情報誌などに当たって確認すべきところだが、なにしろコロナウイルスの影響で外出を控えている状況のため、ほとんど手元にある資料およびインターネットで得られた情報のみをベースとしている。そのため調査が不十分である点はご容赦いただきたい。

8トラック・カートリッジはアメリカ合衆国で、主にカー・ステレオでの使用を前提に1965年に製品化された。オープンリール・テープは車内での操作はほぼ不可能、1962年に開発されたコンパクト・カセット(我々が普通にカセットと呼んでいるもの)はその時点ではまだ音質的にも機能的にも未成熟で、オーディオ用としては認知されていなかった。8トラックの開発にも関わった米RCAは、1965年のうちに175タイトルのカートリッジを発売。大手自動車メーカーも8トラックを再生できるカー・ステレオを組み込んで、セールス・ポイントのひとつにするようになっていった。
当時の米RCAヴィクターのLPのカンパニー・スリーヴにはこんな広告も載っていた。

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8トラック・カートリッジとはどのようなものか、改めて書いておくと、オープンリールと同じ幅に8トラック分が録音されたテープが、横10cm×縦13.5cm×厚さ2.2cmほどのカートリッジ・ケースの中に1リールのエンドレスで巻かれたもので、内周部から窓の部分に送り出され、再生ヘッドと内蔵されたピンチローラーを経て外周部に巻き取られたテープが、ひと巻き分再生し終ってテープの繋ぎ目に貼られたセンシング箔を機械が感知する度に、再生ヘッドがガチャッと下に送られて4つのステレオ・プログラムを順番に再生していくというもの(4チャンネル録音の場合はプログラムは2つとなり、対応する再生機が必要)。4つ目のプログラムが終わると最初に戻り、ほっておくとずっとエンドレスで再生し続ける仕組みになっている。構造上巻き戻しは不可能、早送りも同様で、機種によってはできるものもあるようだが、いずれにしても高速ではできない。基本的に操作できるのはプログラム・チェンジだけだ。

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手間いらずのようでいて、この不自由さと大きさが、刻々と進化を遂げていったコンパクト・カセットに後々シェアを奪われる最大の要因となる。プログラムが進む前に長いブランクが発生しないよう、各プログラムの演奏時間はほぼ同じになるように編集されている。アルバム(LP)をそのまま8トラック化しようとしても、片面の演奏時間のちょうど真ん中に曲の切れ目がくることはまずないため、曲順が入れ替えられたり、中間に位置する曲がフェイド・アウト~フェイド・インで2つに泣き別れした形で収められたり、というケースが多く発生する。もっともそれはアメリカ合衆国など海外での話で、日本の場合は少し事情が異なっていた。

その日本では、ニッポン放送の系列会社として1966年10月に設立されたニッポン放送サービス(1970年にポニーと改称)が、既成のレコード会社からも音源提供を受ける形で1967年4月に「ポニーパック(PONY Pak)」の名称で販売を開始したのが最初。今のところ手元にあるカートリッジの数は微々たるものだが、当時のポニーパックが1本ある。

8pj3031a

山田太郎「友情のうた」(1965年9月)以外は1967年8月から10月までにリリースされたシングルおよびそのB面曲が並んでいるので、1967年11月頃の発売ではないだろうか。〈クラウン・ヤング・ヒット・パレード〉と、クラウンの音源を使用していることが売りになっている。

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同年には渡辺プロダクションと文化放送の合弁によるアポロン音楽工業も設立されている。ビクターなど旧来のレコード会社も8トラックのリリースを順次始めていったが、実際に普及が進んだのは1968年に入ってからだろう。手元にある雑誌『中南米音楽』1968年1月号には「オーディオ教室~テープ・トラック」(文:坪井謙旺)という記事があり、その中で8トラック・テープにも触れられているが、「我が国ではあまり見られませんが、カー・ステレオやBGM用に使用されています」とコメントされている。それが同誌でも3月号になると「タンゴとラテン 各社新譜リスト」に、キングから出るセルジオ・メンデス&ブラジル66の8トラックなどが他のLPに交じって掲載されるようになり、9月号には「最近はテープ界の進出がめざましく発展していますが、最近発売されたテープをリストにしてみました」として2ページにわたる単独の「各社テープ新譜リスト」が掲載されるに至った。タンゴや広義のラテンが対象なので、歌謡曲やポピュラー全般、ジャズ、クラシックと比べたら数的には微々たるものだろうが、紹介された本数をメーカー別(掲載順)、種類別に表にしてみた。

メーカー

4トラック

オープンリール

8トラック

カートリッジ

4トラック

カセット

合計

キング

2

   

2

ポリドール

2

 

1

3

東芝

1

4

 

5

ビクター

 

2

 

2

フィリップス

   

1

1

アポロン

   

2

2

エース・パック

 

3

 

3

メッカ

 

3

 

3

ポニー

 

1

 

1

合計

5

13

4

22

ここで注目すべきは2点。まず、数的には8トラックが優勢ながら、この時点で既にカセットもリリースされていたこと。実は同誌6月号には前述の坪井による「オーディオ教室~テープレコーダーの新方式――『カセット』」という記事が既に掲載されていて、この新しいメディアの将来性について語られている。文末で坪井は「一般用テープレコーダーはやがてカセットに統一される可能性が濃厚である」と書いているが、実際にその通りになるわけで、1968年の時点でこれを書いた坪井の先見の明も大したものである。もう1点は、既成のレコード会社以外に、先ほども触れたポニーやアポロン以下ミュージック・テープ専門メーカー(当時)各社の商品が登場していること。そう、これこそが海外と異なる日本の特殊事情の話に繋がってくるのだが、詳しい説明は後にして、1969年にかけてのリリース状況もみておこう。以後『中南米音楽』誌に毎月掲載されていた「各社テープ新譜リスト」は1969年5月号を最後に途絶えてしまうが、その間にはCBS・ソニーが新規に参入したり、日本ではビクターから出ていた海外RCA原盤が、日本でも同じ日本ビクター内のRCA事業部から出るようになったり(詳しくは「“RCA”と“ビクター”と“ニッパー”の関係とその歴史」参照)、というような動きがあった。1968年9月号から1969年5月号までに掲載された全タイトルの合計は以下の通り。

メーカー

4トラック

オープンリール

8トラック

カートリッジ

4トラック

カセット

合計

キング

9

15

4

28

ポリドール

12

6

12

30

東芝

1

8

2

11

ビクター/RCA

2

19

2

23

フィリップス

1

1

15

17

CBS・ソニー

3

7

8

18

コロムビア

0

6

4

10

テイチク

0

2

0

2

アポロン

0

5

4

9

エース・パック

0

8

0

8

メッカ

0

15

0

15

ポニー

4

18

13

35

TDK

4

0

0

4

TBS

0

2

0

2

合計

36

112

64

212

こうしてみても、当時のトレンドは8トラックでありながら、カセットも意外と出ていたんだなということがわかる。メーカー毎のフォーマットの使い分けも様々で、単独のフォーマットでのみリリースされるもの、複数のフォーマットでリリースされるものなど様々だった。これは偶然だろうが、同じ日本ビクターでもビクター/RCAは8トラックが多く、フィリップス(日本フォノグラムとしてビクターから独立するのは1971年のこと)はカセットがメインだったりしている。

さて、ここからはメーカー/レーベルの話。上の表ではテイチクまでが既存のレコード・メーカー、アポロン以下がテープ専門メーカーとなり、それらも放送局系、オーディオ・テープ・メーカー、独立系の3つに分類できる(後にレコード制作まで手を伸ばしたところもいくつかある)。そのうち放送局系では、文化放送系のアポロン、ニッポン放送系のポニーに加え、TBS(東京放送)系のTBSサービスで制作されたものがトミー音芸制作工業から出ていた(ベルテック、クラリオンといったカー・オーディオ・メーカーからも出たようだが実態は不明)。またリスト外ではABC朝日放送系で制作音源がテイチクからレコード化もされていた朝日ミュージパック(朝日ミュージック・サービス)というのもあったが、TBSもABCも先行2つのようなシェアは築けないままに終わった。オーディオ・テープ・メーカーとしては、TDKのほかにオープンリールのみだがティアックも独自にミュージック・テープをリリースしていた(以前「キンテート・レアルによる日本の歌謡曲集」で触れたオープンリール作品『キンテート・レアル イン スタジオ』をその後入手できたので、どさくさ紛れに写真を載せておく)。

Atp2010

それ以外は独立系で、ラテン系にも積極的だった名古屋のメッカレコード・パックなど、リスト外ではJASS(日本音楽工業)、GM PAK、DELLAなどがあった。使われる音源も、独自音源を制作したり、既存のレコード会社等から提供を受けたりと、様々だった。

そう、この辺りが、基本的には既存のレコード会社がLPと同内容のものを(曲順の変更等はあるにせよ)リリースしていた海外と異なる、日本固有の特殊事情ということになる。そして既存のメーカーからリリースされたタイトルも、ザッと見渡した限り、LPとは別のラインでの編集ものや独自テーマによる企画ものの方が数としては多かったようである。

独自制作の立場から音源を確保する上で、各レコード会社と密接な協力関係を持ったラジオ局系メーカーが有利であることはある意味当然だろう。どちらかというと、コロムビアやビクター、キング、テイチクといった古参メーカーは自社で、そこから枝分かれしたクラウンやミノルフォンといった新しめの会社はポニーなどに音源を提供し、というのが当初の傾向だったようである。

そしてアポロンの場合は更に、単なる放送局系に留まらない強力なアドヴァンテージがあった。それは先に触れたように、アポロンが渡辺プロダクション(ナベプロ)と文化放送の合弁によって誕生した会社だからである。ナベプロと言えば、1961年8月20日に東芝音工からリリースされた植木等「スーダラ節」を皮切りに、原盤権ビジネスを開始したことでも知られている。それ以前の日本では、原盤権はレコード会社にあるのが慣例だったが、ナベプロは企画制作からマスターテープ作成までを手掛け、東芝はプレスから販売までを受け持ったのである。1962年10月には渡辺音楽出版も設立され、アーティスト・マネージメントから音楽出版権管理、原盤制作まで含めたトータル・プロデュースを可能にしていく。原盤の提供先は、加山雄三やザ・ドリフターズ、奥村チヨなら東芝、ザ・ピーナッツや布施明ならキング、園まりやザ・タイガースならポリドール、森進一ならビクター、ジャッキー吉川とブルー・コメッツならコロムビア(CBS・ソニー発足まではCBSレーベル)というわけだ。アポロン発足後は、当然ながらミュージック・テープはアポロンからのリリースとなるわけだが(契約先の各レコード会社からテープが発売されるケースもある)、そうした中からレコードの形では出ないテープ独自企画も生まれるようになる。

ザ・タイガースを例にとると、1967年12月13日に東京・大手町のサンケイホールで行われた『ザ・タイガース・チャリティーショー』のライヴ録音が、1968年2月にアポロンからオープンリール・テープ『ザ・タイガース・チャリティーショー実況録音テープ』としてリリースされた。その後カセット『THE TIGERS A GO! GO!』と8トラック『LET’S GO THE TIGERS』でも出たが、なんとこの3種では曲目も曲順も異なっているという。それらの収録曲を網羅し演奏順に並べ直してCD化した復刻盤が、2000年6月にポリドールから出たCD12枚組BOX『1967-1971 THE TIGERS PERFECT CD BOX MILLENNIUM EDITION』のDisc 12『The Tigers A Go! Go!』である(下はそのジャケット写真で、オープンリールのパッケージを模したデザインになっていた)。

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1968年にアポロンから8トラックとカセットで出た伊東きよ子(コロムビアからCBS・ソニーに移籍する狭間)とザ・ハプニングス・フォー(東芝)の『花のマドンナ』は2000年12月に新星堂から『オー・ガンソ』としてCD化。1970年頃に8トラックで出たザ・ハプニングス・フォーの洋楽カヴァー企画(原題不明)は1999年にWEA JAPANから『決定版!R&Bベスト16』としてCD化。このほか、ブルー・コメッツや奥村チヨのカヴァー集なども複数がCD化されている。このように、グループ・サウンズやポップス系女性歌手のテープ独自音源の復刻はある程度進んでいるのに対し、演歌系などはまったく顧みられていないのではないか。ということで、ようやくクール・ファイブの話になるのだが、この続きは次回。

2020年6月24日 (水)

8トラック・カートリッジ・プレーヤー再生への道

【6月25日:文末に重要な追記あり】

Img_8249

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先月(5月)導入したSONYの8トラック・カートリッジ・プレーヤーのTC-6(導入記はこちら)、右チャンネルは普通に音が出ていたが、左チャンネルの方はレヴェルが低く、音もこもっていて、その程度はソフトによって多少差がある感じだった。

Img_8250

いつ買ったかわからないオーディオテクニカのヘッドクリーニング液(写真左)でクリーニングは行っているが、とりあえずヘッドを消磁してみようと、消磁器を物色。またまたヤフオクでSONYのHE-3、取扱説明書付、動作確認済みというのが出品されていて、クーポンも使って1,000円ちょっとで落札できた。

Img_8242

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実際に消磁してみても、音の出方はほとんど変わらなかったが、どうせ必要なものだし、格安で買えたのはよかった。消磁器はTDKのカセットテープ型のを持っていたが、長いこと使っておらず、電池を交換しても表示ランプが付かなくなっていた。

現状のTC-6は出力が低く、まともに音が出る右チャンネルでも、アンプのヴォリュームが通常9時ぐらいの位置に対し、11時半ぐらいまで上げないと充分な音量にならず、左は更に音がまともに出ていないため、パソコン上で調整してみることにした。もともと、再生したアナログ盤をパソコンに取り込んでデジタル化するために、オーディオ・アンプのテープ入出力端子は、RMEのBabyfaceというインターフェース(A/DコンバーターとD/Aコンバーター)を経由してパソコンと繋がっている。

Img_8254

そこでBabyface用のミキサーであるTotalMix FXの出番となったわけである。当初は左チャンネルのアナログ入力のゲインを33~36dB程度、右チャンネルを27~30dB程度で様子を見た。聴感上左右のエネルギーバランスは揃ってきたが、レヴェルインジケーターはむしろ左が高め。ヴォーカルがセンターにピタッと定位せず、どうにも違和感がある。先日まとめて安く購入したカートリッジに、1本だけモノラル音源(柳家三亀松の都々逸)があったので掛けてみると、まるで疑似ステレオのよう。

Img_8253

そう、音がこもった感じがしたのは、中~高音域が出ていなかったからなのだ。そこでTotalMixのイコライザーの登場である。モノラル音源の右チャンネルの方をON/OFFしながらほぼ近い状態まで持っていったら、こんな感じになった(わかりづらいが、左チャンネルのイコライザー・カーヴに注目)。

Totalmix-fx-for-tc6

左右のゲインは結局30dBで揃えた。要するに左右の入力レヴェルは同じにして、左チャンネルの中音域以上を思い切り上げたところで、左右のバランスが取れたのである。左チャンネルだけ中高音域が出ていないのはなぜなのか。ヘッドの摩耗なのか、回路的な問題なのか。と思いつつ、ヘッドの写真を撮ってみたらすぐにピンときてしまった。

Img_8251

ヘッドの下側の右チャンネル読み取り部がほとんど無傷なのに対し、上側の左チャンネル読み取り部とその周囲は擦り傷だらけではないか。恐らくこれが原因だろう。パソコン側での増幅とイコライジングという対処療法でとりあえずはまともに聴けるようになったのだから、御の字である。

【以下 6月25日追記】

...と、ここまで書いたのが23日の夜のことだったが、ヘッドの傷がなんとかならないかと調べたりして、何の気なしに綿棒にいつものオーディオテクニカのヘッドクリーニング液を付けて、いつもよりは強めに丁寧にこすり続けてみたら、なんとこんな状態に!

Img_8264

なんてこった。左チャンネル読み取り部周囲を覆って中高音域の減衰を招いていたのは、キズではなく頑固な汚れだったのだ。早速再生してみると、みごとに左右均等なバランスで音が流れだした。求めていたのはこの自然な音だ。アンプのヴォリュームを上げさえすれば、もはやコンバーターを通してイコライジングする必要はない。それにしても私はこの1か月半近く、いったい何をやっていたのだろう。

【更に6月25日夜追記】

原因と対応にたどり着くのに時間が掛かったのは、恐らく最初の時点で、実際には不十分極まりなかったがクリーニング液によるヘッド・クリーニングを一応行っていたため、汚れが原因という発想が持てなかったからだと思う。Facebookの方で、「テープの磁性体はこびりついたら頑固」というコメントをもらい、思い当たることがあった。プレーヤーの入手当初は、まだ左チャンネルの中高音域減衰は、それほどでもなかった印象もあるのだ。ヘッドの左チャンネル部分に磁性体がある程度こびりついていた状態で、それを落とせないまま再生を繰り返したことで、磁性体の更なる付着を招いたのだとすれば、おおよその流れの説明もつくように思う。ヘッドをピカピカにできたことで、音の出方が明確になり、音量も多少上がったようにも思える。あとはこの状態を保つことが大事だろう。

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