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2021年2月23日 (火)

CD-4を中心とした4チャンネル・レコードの再生

オーディオの黒歴史とすら言われた4チャンネル・レコードの再生環境づくりが進んでいる。きっかけは、昨年(2020年)10月4日のFacebookへの次の書き込みだった。

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家では4チャンネルを聴ける環境にないのに、「資料だから」と集めているクール・ファイブの4ch盤。それでも、通常のステレオで聴いてもミックス違いが楽しめる曲もある。鳴り物入りでの発売から衰退までが短かった4chだが、ちょうど彼らの全盛期とダブっているので、全部で15タイトルも出ている。先日ようやくここまで揃った。残りはライヴ1種、カヴァー2種だから、彼らのオリジナル曲は一応カヴァーできたことになる。

これを書いた時点では、実際に“4チャンネルを聴ける環境”が作れるとはまったく考えていなかったし、どうすればいいかという知識もなかった。ところが、これに対して「是非、家で4chを聴ける環境にしましょう」とコメントしてきたのが、“4ちゃんねらー”として4チャンネル愛好家に知られる中澤邦明氏であった。躊躇する私に「リアスピーカーは小さいものでもいいと思います。後ろから音を出せる事が重要なので」と畳み掛けられ、心が大きく動いた。もしかしたら実現できるのか?

1970年代前半に登場した4チャンネル・レコードには、大きく分けて2つの方式があった。ひとつは周波数シフト応用のディスクリート(完全分離)方式で、ビクターが開発し商品化したCD-4が代表的なもの。もうひとつは位相シフト応用のマトリクス方式で、サンスイが開発したQSとそこから派生して業界の標準となったRM(レギュラー・マトリクス)、ソニーと米CBSが提唱したSQが中心だが、互換性が確保されながらも微妙に異なる他の方式もある。こうした方式の乱立ぶりとソフトの不揃いさが音楽ファン、オーディオ・ファンの間での混乱を招き、普及を妨げた大きな要因であるとは、広く言われていることである。

SQおよびQS/RM方式のレコードは、通常の2チャンネル・ステレオとしても再生できるが、クール・ファイブはRCAからのリリースだから、4ch盤はCD-4方式である。ステレオ再生は可能だが盤がダメージを受けやすく、あまり勧められるものではない(詳しくは後述)。中澤さんがまず教えてくれたのは、CD-4の再生には何が必要で、それを入手するにはどうすればいいかということだった。

CD-4は、左右それぞれのチャンネルの可聴帯域(20Hz~15kHz)にフロント+リアの和信号、可聴帯域外である30kHzのキャリア(搬送波)にFM変調された差信号が記録されているため、その帯域以上を読み取れる特殊なレコード針(シバタ針またはラインコンタクト針)を備えたカートリッジと、そこからの信号をフォノイコライザー機能も兼ねながら4チャンネル分の信号に復調して出力するディスク・ディモジュレーターが必要だ。対応するMM型カートリッジは、当時ビクターが開発し主力商品としたMD-1016の中古が比較的出回っているのでそれを入手できればよく、針に関してはビクターの4ch用シバタ針4DT-1Xと同等品のJICO 30-1Xが今でも新品として買えるということだった。

問題はディモジュレーターの方だが、中澤さんから思いがけない情報が得られた。多くはジャンク品としてオークションに出品されているディモジュレーターや4chアンプなど1970年代当時の機器を落札しては修理・調整してしまうという奇特な方と知り合いになり、中澤さんにとって“4chの師匠”だというそのAさんに、周囲で4chに興味を持った人を既に何人も紹介しているというのだ。機器の良し悪しも修理に関しても皆目見当がつかないこちらとしては、これ程ありがたい話はない。早速問い合わせてもらうと、修理済みのビクターのディモジュレーターCD4-30(1972年秋の発売。ちなみに海外でのブランドと品番はJVC 4DD-5)が1台あるという。これを適価で譲って頂けることになった。

さて、入り口の方はわかったが、出口まで、つまりアンプとスピーカーをどうするか。予算やスペースの問題もあり、往年の4chアンプもしくは現在普及している5.1chのAVシステムを導入して、システムを肥大化させるつもりはなかった。現在のオーディオシステムをそのままフロント部として使い、簡易的なリア部をそこに組み込んでしまえばいいと考えたわけで、ヒントになったのは、先に紹介した中澤さんの「リアスピーカーは小さいものでもいいと思います」の一言だった。当初4chなんて無理と思っていたのは、リアスピーカーなんて置く場所もないと考えていたからだが、卓上タイプの小さいものなら、可動式CDラックの上に置けそうだ。もともと部屋のオーディオはニアフィールド・リスニング用のセッティングだから、スピーカーは隅に置くのではなく、中央寄りに小ぢんまりと置けばいいのではないか。ということでアンプ内蔵のパワードモニタースピーカーで手軽な物はないかなと検討し、TASCAMのVL-S3に決定。実売9,000円程度だが、メルカリで6,000円で買えた。

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CD4-30をAさんのところに引き取りに行く1週間ほど前にVL-S3が届いたので、パソコンからの4ch再生を先に始めることになった。パソコンからの再生については、パソコンとオーディオを繋いでデジタル⇔アナログ変換を担うオーディオ・インターフェイスとしてRMEのBabyfaceを使っていたのが、結果的に大変役に立った。調べてみると、パソコン上のBabyface用オーディオミキサーTotalMix Fxで、パソコンで再生したDVDやブルーレイの5.1chを4.0チャンネルにダウンミックスすることが可能だった。そしてBabyfaceのアナログ側のステレオ入出力ケーブルはオーディオ・アンプのテープ入出力端子と繋いでいるのだが、それとは別にリアの音声をヘッドホン端子から取り出せることがわかった。前後のヴォリュームは別々に調整しなければならないが、分けて出せればとりあえずOK。

また、SQ/QSデコーダーがなくても、パソコンに取り込んだマトリクス音源(エンコードされたものであれば、ソースはLPでもCDでもYouTubeでも良い)のWAVファイルをデコードソフトを使って4ch化できることもわかった。これを実践するにあたり、尾上祐一さんのブログ記事『昔あった4チャンネル・ステレオ・レコードを聴く』が大変参考になった。4chレコードで一番流通量が多いのがCBS・ソニーのSQ盤だが、手持ちは多くないので、このやり方で今のところ間に合っている。

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そして10月29日、念願のCD4-30をAさんの事務所から持ち帰ってセッティング。Facebookには翌日このように報告した。

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昨日、調整済みのビクターのCD-4ディモジュレーター、CD4-30が我が家にやってきた(CD-4は、日本ビクターが開発したディスクリート方式4チャンネル・レコード)。準備しておいたCD-4用カートリッジ(MD-1016+JICOの新品シバタ針30-1X)をセットし、セパレーション調整を行い、ついに再生環境が整った。その2日前までには、ビクターが1972年から75年にかけて国内向けに制作したタンゴの4チャンネル・レコード、それも状態の良いもの9点が一気に揃えられたのも嬉しかった。ということで我が家でのCD-4リスニングはこの25枚(+テスト・レコード1枚)からスタート。

かくしてCD-4の再生環境が整ったのだが、いろいろと気になることも出てきた。一番厄介だったのは、特に内周部のレベルの高い部分に頻繁に付帯するバリバリという非常に耳障りなノイズだ。CD-4盤は高周波数帯まで再生する必要もあり、線速度が遅くなるだけでもノイズの影響を受けやすく、キャリアの読み取り精度も落ちることから、内周の送り溝の部分は通常のレコードよりも幅を広くしてある。

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それでも中古のCD-4盤には、見た目は奇麗でも実際に4チャンネル再生すると酷いノイズを発生する盤も多いと聞いていた。専用ではない一般のカートリッジを使い、針先の形状と針圧が適切でなかった場合にダメージを受けやすいというのが主な原因のようだ。

本来CD-4盤の再生には、専用のカートリッジを使用しなければならないはずだった。Aさんがディモジュレーターのおまけに付けてくれた調整用テスト・レコードには「このレコードは、CD-4用カートリッジで再生して下さい。従来のステレオ用カートリッジでこのレコードを演奏しますとレコードを痛めますので絶対に御使用にならぬようお願い致します(針圧は2.0g以下で演奏して下さい)」との注意書きがあった。だが実際に商品として販売されたものには「このレコードを従来のステレオ装置にかけますと、2チャンネル・ステレオとしてお楽しみいただけます」と書かれた下に小さく「将来、4チャンネルでお聞きになる場合も考えて、できるだけ針圧の軽いピック・アップをご使用ください」と遠慮がちに書いてあり、米RCAのquadradisc(CD-4の商標)にも"THIS COMPATIBLE STEREO / 4-CHANNEL RECORD is designed for performance on stereo or discrete CD-4 quadraphonic systems"と書いてあった。恐らくは間口を広げないとなかなか売上げに結びつかないという事情が背景にあったのではないかと推察される。

もともと4chは定位が不明確になりがちだが、もうひとつ気になったのが、フロント左右の音量差。どうも右が弱いので、ヴォーカルがセンターに定位せず左に寄ってしまい(リアは問題なし)、原因もこの時はわからないまま。先のノイズの発生率の高さ、スクラッチノイズがやたら増幅される点などとも相まって、落ち着いて音楽に没頭できる雰囲気ではなくなり、段々と聴く機会も減っていってしまった。

そんな折の12月下旬、またも中澤さん経由でAさんから驚くべき情報がもたらされた。要約すると、私も入手したCD4-30はビクターのディモジュレーターの中でも第2世代に当たり、普及率は高かったが耐ノイズ性能にはまだ問題があったという。1975年に登場した第3世代ディモジュレーター用のCD4-392というICチップでは大幅な改善がみられたが、既にCD-4の衰退期にあたり、これが使われた機器はほとんど普及せず、あっても非常に高価である。Aさんは、たまたま入手した「名もない4チャンネルレシーバー」にそのICチップを載せた基板が使われているのを発見し、手持ちのCD4-10(CD4-30と同世代の上位機)を改造してその基板を移植してみたところ、ノイズが酷くて死蔵していたレコードや、内周付近でノイズが目立っていたレコードが「全くノイズを発生することなく再生可能となった」というのである。

この話に私も色めき立ったが、かといってどうすることもできない。私なりに調べてみたところ、そのICを載せた基板が使われた機種はいくつか特定できたが、いずれもサンスイやアカイといった国産メーカー製ながら、海外市場向けで日本国内では販売されておらず、eBayなどに出ていても高価である。海外(主に米国)向けということは、向こうの方が4ch衰退の速度が緩やかだったということだろう。

中澤さんが年末から年始にかけて、Aさんが改造したそのCD4-10を自宅で試聴しレポートされていたが、その中で気になったのが「カートリッジをオルトフォンMC-3 Turboに交換する事でもノイズをかなり減らす事が出来ました」と書かれた部分。中澤さんは、ファインライン針(=ラインコンタクト針)付きでフォノイコライザーのMM入力に直結できる高出力MCカートリッジであるMC-3 Turbo(海外では1997年、国内では1999年発売)を、安くなっていたから4ch用ではない普段聴き用のカートリッジとして買ったのに、再生周波数帯域20Hz~30kHzというスペックをみてCD-4を再生できるのではないかと思い、試してみたところ問題なく再生できてしまった、という話だった(これは昨年11月の話)。だが、改造版CD4-10との相乗効果の話としては、この時点では私はまだディモジュレーターの改造による改善の方に気を取られていたのだった。だから、1月24日の時点で中澤さんの「残念ながら、MC-3 Turboは生産終了だそうです」という書き込みを目にした時も、そうか、ぐらいにしか思わなかった。

それが一変するのは、2月13日のこと。中澤さんが、生産終了になったMC-3 Turboが某ショップの通販で61%引きの17,800円で売られている、在庫処分だろうから買うなら今のうちだと教えてくれたのだ。書き込みがあったのが午前3時前。朝その情報を見た私が「通常の第2世代ディモジュレーターではビクターのカートリッジと比較してどうですか?」と質問したところ、「私はこちらの方が良いと思いました。なんと言っても、経年劣化に怯えなくてもいいというのが利点です」との答え。これはもう買うしかあるまい。11時過ぎに注文を済ませ、18時にはもう販売は終了していた。危なかった。

翌2月14日、商品が無事到着。早速余っていたオーディオテクニカのヘッドシェルに取り付けて音出し。いきなり衝撃を受けて、思わずFacebookの4チャンネルのグループにこう書き込んだ。

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いやこれ凄い! まだ聴き始めたばかりですが、音がクッキリして空間表現力に優れ、ノイズが激減しました。
思うに、私の買ったMD-1016+4DT-1Xは明らかに問題があったような気がします。

あれほど悩まされていた嫌なノイズが、100%とは言わないが90%以上消えたのだから、驚くやら嬉しいやら。これがディスクリート4チャンネルの世界かと、その表現に初めて納得がいった。第3世代ディモジュレーター用のICチップに頼らずとも、ここまで再生できれば何の文句もない。MC-3 Turboと完璧に調整されたCD4-30との組み合わせは、実に強力だったのだ。MD-1016の方は、往年の名器とはいえ、個体差はあるだろうが少なくとも私の入手したものに限って言えば、さすがに経年劣化はかなりのものだったようだ。

そして、これは私一人の感想ではなかった。私にとって4ch再生では中澤さん同様先輩にあたるKさんも同時にMC-3 Turboを購入され、「こ、これは凄い!ノイズ感ゼロで、低域もふくよか。もう4MD-1Xに戻れない!」「なんと今までのビクターのカートリッジと比べようもないノイズと歪み感のないすばらしい4チャンネル再生。コレクション、全部聴き直します!」とFacebookにコメントされたのである。ちなみに4MD-1Xというのは、当時MD-1016と4DT-1Xとのセット販売の際に付けられた品番。

さて、このように高いポテンシャルをいきなり発揮したMC-3 Turboだが、4ch再生についての評価をネットで探してみても、何も見つからなかった。見つけたと思ったら、どれも中澤さんが書かれたと思われるものばかりだった。もちろんオルトフォンはこのカートリッジをCD-4再生可能という名目で売っていたわけではない。中澤さんも偶然発見したわけだが、今まで本当に、誰一人としてそのことに気付かなかったのだろうか。

もっともこれは日本国内での話。海外のフォーラム quadraphonicquad.com を覗いてみてもMC-3 Turboの名前を挙げていたのは見つけた限りではオルトフォンの米国でのディーラーだという一人だけだったが(書き込みはこちら)、海外の根強いCD-4ユーザーの間では、オルトフォンのMC(例えばMC20 Super)を含めた様々なカートリッジが使われていることがわかった。原則的にシバタ針かラインコンタクト針のものに限るのは自明として、使用例が報告されているカートリッジの中には周波数帯域の上限が30kHzに満たないものも含まれているのだが、これについてはある人が、カタログに載っているスペックは最低保証で実際にはそれ以上の対応能力があるので、30kHzのキャリア信号も大抵読み取れると書いていた。むしろMCおよび組み合わせる昇圧トランスからの出力レベルが高すぎたり低かったり、トランス不要の高出力MCが実際にはディモジュレーター側から見て必要なレベルに満たないことなどにより、うまく動作しないこともあるとのことだ。そこでのいくつかの情報から拾い出すと、現行のMMカートリッジの中では、オルトフォンの2M Bronze(無垢ファインライン針、20Hz~29kHz)、オーディオテクニカのVM750SH(無垢シバタ針、20Hz~27kHz)あたりがCD-4の再生に対応できそうだ。テクニカはMCカートリッジのAT33シリーズをずっとメインで使ってきたので、VM750SHもいつかは試してみたいものだが、当面はMC-3 Turboをじっくりと味わっていきたい。CD4-30をフォノイコとしての通常のステレオ盤再生もいい感じなので。

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