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2021年2月17日 (水)

【旧記事再掲】タンゴ入門講座 その3 タンゴの音楽形式~ミロンガ

旧サイト「tangodelic!」に連載していた記事「タンゴ入門講座」再掲載の第3回(元の連載の第9~10回分)。今回から3回に分けて、タンゴの音楽形式を紹介する。今回はミロンガで、この後タンゴ、ワルツとカンドンベその他と続く。

タンゴの音楽形式(1) 「ミロンガ」その1
(初出:2001年6月6日)

「ミロンガ」という言葉はタンゴで頻繁に使われるが、その意味はひとつではないので、整理しておく必要がある。ただし、それら複数の意味も裏では繋がっていると言えなくもない。一つ目は音楽形式としてのミロンガ。これは本稿のメイン・テーマであり、後で詳しく説明する。二つ目は、いわゆるダンスホールを指す言葉。「今日はミロンガに(タンゴを)踊りにいこう」といった感じで使われる。

そしてこれが重要なのだが、三つ目は、気分としてのミロンガというか、ある種の演奏傾向を指す。つまり、力強くはっきりしたリズムのタンゴの演奏に対して使われる言葉であり、具体的にはピアノの低音部の強調などにその傾向が現れる。もともとは1910年代にフランシスコ・カナロがリズムを強調したタンゴのことを「タンゴ・ミロンガ」と呼んだのが始まりだと思われるが、今日では、ピアノの低音部を強調した1940年代頃のオルケスタ・ティピカ、例えばカルロス・ディ・サルリ、オスバルド・プグリエーセ、アルフレド・ゴビらに対して「ミロンゲーロ(ミロンガ的な人、もの)である」といった形容がなされることが多い。ミロンゲーロの象徴的な存在といえば、アニバル・トロイロ楽団の初代ピアニスト、オルランド・ゴニがまず思い浮かぶ。1941年にトロイロ楽団(もちろんピアノはゴニ)が初演して、作曲者アルマンド・ポンティエルの出世作となった「ミロンゲアンド・エン・エル・40(クアレンタ)」には、「華麗なる40年代」とか「1940年代のミロンガ」といった邦題が付けられているが、直訳すれば「40年代にミロンガしながら」といった感じになるだろうか。

Goni
タンゴ界きってのミロンゲーロ、オルランド・ゴニ(1914~1945)
僅か31歳で夭折したのが惜しまれる。

それでは、本題に入ろう。音楽形式としてのミロンガは、4分の2拍子のリズムで成り立っている。そしてそのリズムは、キューバからヨーロッパ経由で伝えられたハバネラ(フランスのビゼエの歌劇『カルメン』に流用されたスペインのイラディエル作「ラ・パロマ」などが有名)や、スペインのアンダルシア地方から伝えられたタンゴ(フラメンコの中の一形式)と同じである。簡単に音符で表すと、次のようになる。

4x2

ミロンガの起源は、だいたい1870年頃まで遡る。ブエノスアイレス周辺のパンパ(大草原)のバジャドール(吟遊詩人)が、ギターを鳴らしながら即興的に歌う音楽形式のひとつとして、この頃ミロンガが流行していたのである。パジャドールが歌うミロンガはブエノスアイレスやモンテビデオ(ウルグアイの首都。ブエノスアイレスとはラ・プラタ川を挟んで対岸に位置する)の場末に伝えられて、ダンス音楽として徐々に発展していく。同じリズムを持ったハバネラやスペインのタンゴやミロンガは、ほかの様々な要素と混ざりながら、19世紀の終りまでには“タンゴ”という一つの名のもとに集約されていく。その詳しい経緯については「タンゴ」の項に譲るが、そんなタンゴの前身としてのミロンガは、タンゴに吸収合併(?)されて、その役割を一旦終えるのである。

1900年代から1910年代前半にかけての(形式名としての)タンゴは、曲にもよるが、まだミロンガ的なシンコペーションを含んだ4分の2拍子のものが多かった(例えば1903年のアンヘル・ビジョルド作「エル・チョクロ」)。それが、1915年頃を境に8分の4拍子へと変化して行く。前身であるミロンガの痕跡は、どんどん薄れていき、タンゴの第1次黄金時代と言われる1920年代には、ミロンガはほとんど忘れられた存在だった。ミロンガが劇的な復活を遂げるには、1930年代の到来まで待たなければならなかったのである。

タンゴの音楽形式(2) 「ミロンガ」その2
(初出:2001年6月13日)

忘れられた存在だったミロンガを復活させたのは、ピアニストで作曲家のセバスティアン・ピアナ(1903~1994)だった。ピアナは1931年、作詞のオメロ・マンシ(1907~1951)と組んで「ミロンガ・センティメンタル」を発表する。このミロンガは、かつての素朴な形のものではなく、音楽的に洗練された新しいものだった。またこの作品はマンシにとっても出世作となった。後年の「スール」などで高い評価を得る彼も、当時はまだ駆け出しの新人だったのである。「ミロンガ・センティメンタル」は、翌年ペドロ・マフィアの大編成オルケスタが演奏してから評判となり、多くの歌手や楽団が取り上げる人気曲となった。ピアナ=マンシのコンビは続いて「1900年のミロンガ(ミロンガ・デル・ノベシエントス)」を発表。この2曲はテンポの早いミロンガだが、ピアナ=マンシのもうひとつの傑作ミロンガである「悲しきミロンガ(ミロンガ・トリステ)」はタイプが異なり、ゆったりとしたテンポで牧歌的な香りを漂わせている。かつてパジャドールたちが歌った草原のミロンガは、タンゴとフォルクローレ(民謡)に枝分かれしていったわけだが、フォルクローレの分野でもアタウアルパ・ユパンキらによって、音楽的にはシンプルながら文学性を備えた新しい形に生まれ変わりつつあった。「悲しきミロンガ」には、そうしたフォルクローレ界の新しい動きからの影響も反映されていたのである。

Piana
ミロンガ復興の功労者、セバスティアン・ピアナ(1937年)

1930年代のミロンガというと、「ラ・プニャラーダ」(邦題は「ナイフで一突き」または「刃物さわぎ」)をめぐるエピソードが面白い。ウルグアイのピアニスト、ピンティン・カステジャーノス(1905~1983)は1933年、この曲をタンゴ・ミロンゴンという形式名で発表した。これは前回ご紹介したタンゴ・ミロンガ(昔風の力強いリズムのタンゴ)を更に強調した言い方らしい。発表して3年後の1936年、カステジャーノスがモンテビデオを訪れたフアン・ダリエンソにこの曲を聴かせたところ、ダリエンソ楽団のピアニスト、ロドルフォ・ビアジがミロンガにアレンジし直して楽団のレパートリーとしたのである。37年4月に録音されたダリエンソ楽団の「ラ・ブニャラーダ」は大ヒットし、それ以降この曲はミロンガの定番のひとつとなった。なお、フランシスコ・カナロ楽団は1937年6月にこの曲をもとのタンゴのまま演奏しているが、何とも間の抜けた感じで、全く面白くない。

それでは、1930年代以降に書かれたミロンガから、現在までよく演奏される代表的な作品をいくつか挙げてみよう。

 わが愛のミロンガ(ミロンガ・デ・ミス・アモーレス)(ペドロ・ラウレンス作曲、1937年発表)
 マノ・ブラバ(すご腕)(マヌエル・ブソン作曲、1940年頃)
 ラ・トランペーラ(うそつき女)(アニバル・トロイロ作曲、1950年)
 タキート・ミリタール(軍靴の響き)(マリアーノ・モーレス作曲、1952年)
 コラレーラ(アンセルモ・アイエータ、1950年代半ば)
 エル・フィルレーテ(マリアーノ・モーレス作曲、1950年代後半)
 ノクトゥルナ(フリアン・プラサ作曲、1959年)

いま挙げたのは、すべてテンポの早いミロンガである。「悲しきミロンガ」のようなゆったりしたものは、作品の数自体が少ない。その一方で、例えばユパンキ作「牛車にゆられて(ロス・エヘス・デ・ミ・カレータ)」のように、フォルクローレのミロンガをタンゴ楽団がレパートリーに加える場合もある。こうした作品は、タンゴに於けるミロンガと区別するために、ミロンガ・カンペーラ(田園のミロンガ)とかミロンガ・パンペアーナ(パンパのミロンガ)などと呼ばれたりする。

オスバルド・プグリエーセ楽団のバンドネオン奏者、オスバルド・ルジェーロが作曲し、1962年に同楽団が録音した「ボルドネオ・イ・900(ノベシエントス)」は、テンポの遅い部分と早い部分とで構成される、かなり凝った作りのミロンガである。タイトルのボルドネオとは、かつてのミロンガの土台をなした、ギターの低音弦のこと。900は1900年を指す。様々な要素を複合的に絡ませたこの作品の芸術的価値は高い。最後に、ミロンガといえばピアソラ作品も忘れてはならないが、ピアソラはテンポの早い一般的なイメージのミロンガは1曲も書いていない。「天使のミロンガ」「悪魔のロマンス」「ミロンガ・フォー・スリー」といった代表的なミロンガは、どれもテンポが遅い。かといってフォルクローレ的な雰囲気を漂わせているわけでもなく、これはピアソラ独自の表現というべきだろう。

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